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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
12.ツインドール
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出したんじゃないだろうな!薄汚い犯罪者の分際で……!!」
「聞いたことがるぜ。あいつ、気に入った女はどこの所属であろうと奪い取って自分の屋敷に侍らせるって」
「そんな!!あんな粗野で粗暴な野蛮人にお姉さまが汚されるなんて考えたくもないわ!ああ汚らわしい!お姉さまの純潔は誰の物でもないのに!」
「あの時、先に話しかけたのは団長だった………過去に接点があったのは確かだろうな」
「あいつ、団長に声をかけられたのに無視しやがって。俺達は怒られる時と命令の時しかお声を聴けないんだぜ?何様のつもりだよッ!!」
「決まってんだろ?『オーネスト様』だよ………ありゃ、そういう男だ。世界で自分が一番エラいんだよ」

 憶測は憶測を呼び、義憤は実体を持たない悪を膨らませる。
 この場にいる全員が、団長の実力も指導力も認めている。だからあれほど厳しい指導であっても彼女に異論を唱える者はいない。そんな彼女の様子がおかしくなったのは、何か良くないことが起こったのだと思いたいのだ。

 隣の国は悪い国、隣の種族は悪い種族。根拠のないレッテルであっても、自らが正義であることを前提にすれば知りもしない相手のことを如何様にも悪く判断できる。自分は正しく、誰にも責められることはないからだ。事実が異なったとしても、彼らの間でそうならばそれでいい。

 そうやって自分が上位の存在だと思い込むことで、心理的な安定感を得る。
 子供の虐めから民族浄化まで人類があらゆる場所で覗かせるコミュニティ共通の一面。
 何らおかしなことはない。何ら恥ずべきこともない。何故なら、それが人間が知恵を得て文化を築いたことに対して負った、正当な代償なのだから。

 但し、その代償は誰もが等しく背負うわけではない。
 食堂の声を聞いてその場を離れた話題の当事者の存在に、誰も気づかなかった。

「こんなとき、そんな皆の姿が醜いと――時折思ってしまう。わたしも人間なのに、こんなのおかしいよね?」

 静かな足音でその場を通りすぎる彼女の背に、毅然とした団長の姿としての面影はない。
 当たり前に不安を感じ、当たり前に落ち込むような、どこにでもいる少女の影を差した表情。普段は彼女が城壁の奥に仕舞い込んでいる幼さと脆さは、このオラリオでは弱みになる。だから、彼女は自らに戦の才があると気づいてから、それをひた隠しにしていた。
 それでも覆いきれずに漏れた一言は、そのまま無人の廊下に消えていく――筈だった。

『そーかなー?知り合いの知り合いが、ウツクシイものをウツクシイと思える心がブンカだ!……って言ってたよ?ミニクイものをミニクイって思うのも、ニンゲンのブンカなんじゃない?』
『拙者はそのような禅問答には疎いので分からぬ。だが、分からぬからこそ人とは問答を繰り返すのではなかろうか?』
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