10.『死』の喚起
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ということなのだろう。
だけど――それでは、彼等は特に理由もなく他人より早く死んでいったのか。
ただ運が悪く、星の巡りが悪く、最初からそんな器ではなかったということか。
そう考えた時、心の中でアズライールの発言を受け入れられない自分が一瞬だけ顔を覗かせた。
「きみ、今ホッとすると同時にちょっとだけ納得いかなかったね?」
「あ、え………?」
「つまるところ、さっき言った『しこり』っていうのはその部分の事なんだけどねー……」
そう言いながらアズライールは紅茶用のミルク差しから空のカップにミルクを全部注いで「牛乳うめぇ」と言いながらあおった。それ、そういう使い方じゃないのだけれども。こういう奇行を見ていると、余計にこの人が理解できなくなっていく。
「人間は理解できない状況に陥ると混乱し、何かしらの真実を求めたがる。未知への恐怖……その所在を象徴化することで受け入れがたいものを受け入れやすい形に変容させる。元来、神というのはそういうものだった……実体があるという確信があった訳じゃない。それでも、神がいるのなら、と自分を納得させるために人は奇跡の拠り所を神に求めた」
現に、この世界では神が現れてしまったことで落ちぶれた種族が存在する。
見えないからいたと言い張れたのに、可視可能領域に降りて喋ったばかりに、神は幻想ではなくなった。同時に、実在しない神は入れ替わるように幻想となったのだ。
「………フィルヴィスちゃん。君はね、受け入れ難い仲間の死に理由をつけるために、『自分は本当に死を呼んでいるのかもしれない』って……願ったんだ。そうであれば仲間の死に理由が付く」
「………やめてください」
「自分さえいなければ、皆はもっと永く生きられた筈だから。放っておいても勝手に死んだなんてことはない筈。ああ……いや、或いは自分の周囲にいる人間を殺す悪夢のような存在も考えたかもしれないけど、調査すれば存否くらい調べればすぐ分かる。そんな存在はいなかったと人間の理性で理解したから願わなかったんだろう」
「やめて、ください……!!」
それは、耳に心地よくない言葉だった。
誰かが貶されている訳ではないが、その言葉は心の傷を逆撫でするような痛みをもたらしている。
それは何故か――理由は、『心当たりがあるから』だ。
仲間の死を軽いものにしたくない。死んでしまったからこそ、その一生や散り際が無意味な物であってほしくない。そんな願望が彼等の死に対する想いを変えてしまったんじゃないのかと、アズライールは言っているのだ。
「君の心にある『しこり』……その正体は、君自身が作り出した『死妖精』だ」
そう告げたアズライールは、私の顔を見てふと頬を緩ませた。
「これは友達から聞いた話なんだけどさ……
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