10.『死』の喚起
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しまう。気が付けば、フィルヴィスは周囲に殆ど心を許さなくなってしまった。
――自分が近付けば、きっと相手は不幸になると思ったから。
しかし、ここ2年ほど『死妖精』の名は全盛期ほどのネームバリューを失いつつある。
そう、『告死天使』が彼女のお株を根こそぎ奪っていったのだ。
曰く、死神の子としてオラリオに君臨した冥府の使者。
曰く、その身は神と対を為す悪魔に属する魔界の尖兵。
曰く、彼は世界がこの世に産み落とした生者の対存在。
推定レベル7以上と噂される彼にとって、ダンジョンなど気まぐれの遊び場に過ぎない。
それが証拠に、彼は防具など碌につけずいつも黒いコートを羽織ってダンジョンへ赴き、お気に入りの冒険者『狂闘士』を引き連れて怪我一つなく戻ってくる。しかも、丸腰でだ。彼は既に防御とか、装備とか、そのような次元を超越した先にある存在なのだ。
神がその神気を解き放てばその程度の芸当は可能だろう。だが、ダンジョンは神気に呼応してその狂暴性を爆発させる。神とは対立構造だ。
対して、アズライールはダンジョンに敵視されていない。
それは何故か――理由など分からないが、ある神はこのように語った。
『アズラーイルとは死を告げる者。つまり、彼は生きとし生ける者の隣に普遍的に存在している。ダンジョンが彼を怖れないのは、ダンジョンもまた彼が避け得ぬ存在だと理解しているからだ』
つまり――彼は、神とも精霊とも違う形の超越存在なのだ。
神ではないから天界の制約は受け付けない。法を破っても罰することが出来ない。かといって彼の内包する濃密な『死』の気配は、彼を普通の人間として扱う事を決して許さない。
………と、少なくとも噂ではアズライールという男はそのように語られている。
余りにも謎が多すぎるために謎が謎を呼び、更には街中でロキとコントを繰り広げたり神に変なあだ名をつけて気安く喋ったりと大物のような行動をしているため、アズライールの噂は最早とんでもない広がりを見せている。
もしも噂が全て現実になったら、アズライールという男は悪魔と人間と神と魔物の血が4分の1ずつ流れ、7つの人格を持ち、あと3回変身を残しており、全ての死神の祖であり、64億年前から既にこの星に存在し、人類の心に普遍的に存在する限り無限に復活する不死身のブードゥーキングで、契約の鎖を渡した相手を輪廻の環から切り離し、最終的にはロキを花嫁に新たな世界を創造する究極のクッキングパパになるらしい。
……意味わかんない。
そんなこんなで、みんなフィルヴィスの『死妖精』とかどーでもいいかと思えるほどのトンデモ存在に意識を持って行かれてしまったのだ。この前なんか「え?バンシー?あれでしょ、ア
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