9.紅の君よ、呪われてあれ
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かりやすい暴力が恐れられるオーネストと違い、アズラーイルという男の本質は、底を知ろうとすることさえ烏滸がましいと思えるほどの底知れなさなのだ。
あいつはどこまで出来るのだ?
それを覗いた時、自分はどうなる?
触ってはいけないパンドラの箱。
へらへら笑うあの男の腹の底は、決して覗いてはならない。
故に、アズライールにあるのは恐れではなく畏れなのだ。
= =
『白づくめの男』は、かつて闇派閥というこの街の暗部――秩序を嫌い、世界を乱そうとした悪神の尖兵だった。
6年前、『27階層の悪夢』と呼ばれる最悪の事件を引き起こした彼は一度死に絶え――そして、新たな命を『彼女』に賜った。以来、彼は『彼女』を崇拝し、敬愛し、彼女の願いを――迷宮都市オラリオという汚らわしい神々が創り上げた虚構を滅ぼすために様々な下準備を進めてきた。
そして、準備が本格的な軌道に乗った丁度その頃に、その男は現れたのだ。
「うおーい、オーネストやーい!……ったく、ちょっと寄り道しただけなのに見捨て先に進みやがって。朝の事を根に持ってんじゃないだろうな――って、あら、おたく誰?」
物見客のように呑気で緊張感のない声と共に、それは突如として現れた。
最初、『白づくめの男』はそれの危険性に気付くことが出来なかった。
余りにその男が自然体であったから、警戒心が和らいでしまったのだろう。
それに、冒険者らしいのに丸腰で、忌々しい神の恩恵の気配もどこか薄い。
それらの事実を総合的に判断して、焦るほどの脅威ではないと――愚かにも――思ってしまったのだ。
「ふむ。貴様、どうやって食糧庫に来た?ここに来るまでそれなりの魔物と同志がいた筈だが」
「どうって言われても、正面突破というか……相棒がぶっ殺したというか……」
「つまり、その男のサポーターか?」
「似たようなものかもな」
男はあっけらかんと答え、部屋の中を物珍しげに見回している。その余裕は相棒とやらへの絶対的信頼故か、自分だけは生き残れるという根拠もない自信故か。
なるほど、どうやらこの男の相棒とやらは随分腕が立つらしい。しかし相棒と途中ではぐれて紛れ込んだ、といった所か。相棒とやらは後で速やかに排除するとして、この男はとっとと魔物の養分にでもなってもらおう。
短い会話のなかで得られた端的な情報を総合した結果、男はごく自然に目の前の推定弱者の命運を一方的に決定させた。自らの目的の為にそれを躊躇う理由もなければ、この哀れなサポーターに負ける可能性もないと考えたからだ。
「では、ヴィオラスの餌にでもなれ」
『白づくめの男』の一言を待っていたかのように、大量の食人花が醜悪な
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