7.無頼漢調査その二
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っちまったんだよ。
芸術家にとって、一芸を極めて最高を追求するのは当たり前の事だ、と俺は思っていた。ずっとずっと人形を作り続けた。他人の技術から学び、素材選びや塗装に拘り抜き、千の挫折と万の失敗を乗り越えて俺だけの芸術を磨き尽くした。
だがある時……若き日の俺は、『完成』させてしまったんだ。
何を完成させたか?そういう話じゃないよ。『俺はこれ以上を作ることは出来ない』……そんな自分の上限、『究極』を作ってしまったんだよ。技術、素材、モチベーション……俺の持つ全てのスキルを動員すれば、これからだって作ることが出来る。
最高の人形だったよ。いや、人形と呼ぶのも憚られるものだった。アルル様に「究極である」とお墨付きを貰うほどの……それはそれは、最高のものだったんだ。
これが何を意味するか分かるかな?――永遠の停滞と、灰色の世界だよ。
俺の技術に、思考に、これ以上の発展は無くなった。何故なら、もう『至っている』からな。勿論俺が創った『完成人形』は今でも愛しているさ。未来永劫、フィニートを越える人形はこの世に現れない……ってのは思い上がりかもしれないが、そんな考えさえ頭をよぎるほどにフィニートは素晴らしい。
その素晴らしさが、俺の人形師としての熱を奪い去った。
前へと邁進し、求道する意味と意義を奪い去った。
俺はマエストロとして、人形師として最も必要なものを、フィニートに注いでしまったって訳だ。
アルル様はそんな俺を憐れんでくれたよ。神にとっての退屈とはそのようなものだ、ってね。
完成されているが故に、追求する物もない。アルル様が地上に降りたのも、ひとえに自分が何でも作れるからだ。作れない人間に人形を作らせ、不完全な形が短期間で成長していく様だけが、アルル様にとって色のある物だった。
だが俺の成長は止まった。アルル様にとっての俺は、色のある存在でも灰色の存在でもない――共感者になった。特別であるようで、特別ではない存在さ。俺はそのあと副団長の地位に就いたが、それもアルル様の憐憫とでも言うべき温情によるものだ。俺がやることなんて何一つなかった。
世界は止まったよ。食べ物は味を失い、あれほどのめり込んだ工房も時折手慰みでモノを作るだけの作業台になった。空漠たる無味乾燥の世界……死なない身体で何もない荒野を彷徨っているような、空虚だけが際限なく広がる世界。フィニートは俺に生の実感は与えてくれても、潤いを与えてくれることはなかった。
そんな中で、あいつを見つけたんだよ。
うん、オーネストの奴だな。
あいつは色が違ったよ。街中で見かけたとき、目が魅かれた。
あいつはすっげえ奴なんだ。あいつは人にも神にも思想にも信条にも時代にも文化にも、既存のあらゆる価値観を
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