5.プリーズギブミーお小遣い
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粘性のある血が噴出して足を濡らした。
「――っとと。そんなに焦らなくても要件聞いたら外すってば」
「え……あ………」
その血はナイフと私の足の間に滑りこむように翳された、アズライールの手に深く突き刺さっていた。掌から滴る鮮血はとても暖かくて、真っ赤で、それは紛れもなく「人間の血」だった。神にさえ恐れられる男の手から溢れる、ごくありふれた血だった。
「血、暖かい………」
「そりゃ暖かいでしょ。俺だって死神とか冷血とか言われちゃいるけどれっきとした人間なんだからさ。――さてと、取り敢えずナイフは没収するとして………いてて。手の甲って神経が集まってるから結構痛むなぁ」
自分が足を切断しようとしていると瞬時に察して、鎖ではなく咄嗟に手で受けとめたのだと、遅れて理解した。レベル1の小人族の腕で振るわれた安物のナイフ。それが簡単に突き刺さる光景を見て、リリはアズライールを化物のように扱っていた己を深く悔いた。
身を挺して他人の身体を護ろうと咄嗟に動ける存在が自分に死を告げるなんて、最初からありえなかったんだ。
= =
アズライールは、ちょっとだけ涙目で傷口にポーションをたらしながら「自分の事はアズと呼んでくれ」と告げた。もう、纏う『死』の気配に必要以上の恐れは抱かない。彼は『死』を抱えてはいるが、ごくありふれた人間――冒険者というより一般人に近い気質の人だと理解できたから。
「ったく、親から貰った体なんだから簡単に切り落とそうとしない!せめて状況をしっかり把握してからじゃないと傷が増えるだけだよ?」
「ごめんなさい……」
「それと、君の細腕とあのなまくらで足一本を斬り裂くのは限りなく難しいと思う。ま、だから切れ味のいい剣を持っておけって話じゃないけど………出来る事と出来ない事の区別もつかないんじゃ、本当の危機は乗り切れない。身体は熱く、心はクールに。これ、大事だよ」
「はい………」
「もっと命の使い方をちゃんと考える事!いい?」
「気を付けます……」
リリは困惑を隠せなかった。
何なのだろうか、この昨今オラリオ中を探しても早々お目にかかれない真っ当な人間は。
こちらのせいで自分の手に無駄な怪我を負ったというのに、その件に関してはまるでどうでもいい事のように説教してくる。床に飛び散る生々しい血痕と余りにも不釣り合いな光景だった。それとも、アズの神経が常軌を逸しているのだろうか。
「で?えっと……マリ――ああ、マリネッタの事だけど。彼女から聞いた話によると、俺が他人にポンポン金渡してるのが信じられないから真偽を確かめるために来たんだっけ?」
「え、ええ……マリネッタがあんまりにも貴方が良い人だと主張するので、そんな正義超人みたいな人間が本当にいるのかと」
「……
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