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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
4.くそガキvsくそメイド
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・ファミリア】が壊滅していなかった頃。

 あの頃、彼はまだほんの12,3歳の少年だった。ボロボロの衣を身につけ、古びた鎧と体躯に似合わぬ剣を抱きかかえるように携え、くぼんだ目には爛々と輝く鬼気迫った力を宿していた。周囲の全てを拒絶するような異様な殺気を放ち、亡霊に憑りつかれたようにダンジョンへ向かい続けた。

 年頃の子供の在り方としては、あまりにも痛ましい姿だった。

 彼の身を案じた主神アストレアは、ファミリアに命じて彼がどこのファミリアに所属しているのかを調べさせた。ダンジョンへ潜っているのだから、当然現在進行形で『恩恵』を与えている神がいる筈だと思った。だが――ギルドから帰ってきた返答は、「冒険者としては登録されているが、どこのファミリアにも所属していない」だった。

 彼の剣は、ダンジョンで拾った剣。彼の鎧は、死体からはぎ取った鎧。
 彼はダンジョンからの支給や説明の一切合財を拒否し、登録日以来ギルドに来てすらいなかった。

 独り孤独にダンジョンへ繰り出し、手に入れた魔石やドロップアイテムは全て非ギルド管理の換金所や質屋に叩きこむ少年。その噂は、数年前から町で噂になっていたという。時折彼から身ぐるみを奪おうと暴行を加える冒険者もいたが、襲った者には例外なく反撃して必ず手傷を負わせて追い返したという。追い返すたびに未成熟な少年の身体はボロボロになっていたが、それでも少年の眼だけは異様な殺意にギラついていた。
 どうして死んでいないのかが不思議なぐらいだった。

 アストレア・ファミリアは彼に接触を図りに住処としている空の屋敷に訪れた。
 少年は、無断で屋敷に入ればお前を斬ると言った。

 主神アストレアは彼の身柄を預かり、せめて真っ当な生活をさせてあげたいと言った。
 少年は、余計なお世話だと吐き捨てた。

 当時の私は、そのままではいずれ死んでしまうと訴えた。
 少年はそれを鼻で笑い、だからどうしたと答えた。

 何故、自ら死地に向かう。どうして誰の助けも求めない。
 自分が非力な存在だと分かっている筈だ。子供なら寂しくて心細くて、辛い筈だ。
 そんな人間に救いの手を差し伸べる神を、何故拒絶する。
 彼は――死にたいのか。

 もう話すことはないと言わんばかりに遠ざかる少年の手を、主神アストレアは止めようとして握った。

 その時だった。彼の感情が突然爆発したのは。

『俺に触るなぁッ!!!』

 その小柄で肉のない体からは信じられないほどの力で、少年は神の手を振り払った。
 その瞬間の――憎しみのような、悲しみのような、怒りのような、諦めのような、恐れのような……決定的なまでの『拒絶』の瞳が、忘れられなかった。

 彼は悲しいのだ。悲しいのに、悲しさを他人に見せようとは
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