滲むような死と共に
1.俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
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そこの偏屈冒険者は未だにオラリオで孤独になっていないのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は地上まで上がっていった。
= =
「おい、あれ……」
ざわり、と街の空気が変容する。
それは、街でも屈指のファミリアや冒険者が現れた際によく目にする空気の変化。
だがその瞳に映るのは畏敬ではなく畏怖。この街の異物から離れようとするそれである。
「『狂闘士』と『告死天使』……戻ってきたのか」
『狂闘士』……彼は自らをオーネストと呼ぶ。
弱冠10歳の頃よりたった独りで、『上も下も』魔窟であるオラリオに住まう冒険者。彼は冒険者でありながら、『ファミリアに所属しない』。どの神にも決して膝をつかず、どんな脅しにも決して屈せず、暴力を掲げた者には徹底的な暴力で応対する。
彼がレベルいくつなのか、恩恵を受けているのか、親が誰で過去に何があったのか、誰も知らない。ほんの一部の人と神とのみ関わり、心優しき者も下心ある者も平等に拒絶し、死をも恐れぬ苛烈な戦いぶりは正に『狂闘士』と呼ぶに相応しい。
彼の渾名の由来は、『凶狼』の二つ名を持つ冒険者との苛烈すぎる喧嘩を見た神が名付けたものである。
『告死天使』……親しき者は彼をアズと呼ぶ。
2年前、突如この町に訪れてオーネストの隣に居座った「死神」。彼もまた、冒険者でありながらファミリアには所属していない。どの神にも笑顔で接し、困っている人には手を差し伸べるのに、彼にはいつも濃密な「死」の気配が付き纏う。
レベル、恩恵の有無、人間関係一切不明。交友関係は人並みにあるが、人も神も彼の「死」の気配を怖れて自ら近付こうとはしない。そして戦いにおいてはその「死」の力を遺憾なく振るい、その姿は神を以てして「死神のようだ」と言わしめる。
善良な人間性に反する生物的忌避感と底知れぬ力が故に、神は彼に「死神に近しい者」……『告死天使』の二つ名を送った。
「噂じゃ『告死天使』は『狂闘士』の魂の収穫を待ってるって話だ」
「どっちも人の皮を被ったバケモンだろうが」
「折角ダンジョンに潜ったって聞いてたのに……そのまま二人纏めて野垂れ死ねばよかったのよ」
「バカ、聞かれたら殺されるぞ……!」
ある者は嫌悪感を露わにし、ある者は見る事さえ憚る。
ファミリアに所属しないが故にレベルの報告義務もなければ、活動指針もありはしない。
野放しになった狂犬――秩序を失った天使――そして、彼の周囲で活動する顔も知らない冒険者や神々。それらの集合体を、人々は実体のないファミリア――【ゴースト・ファミリア】と呼ぶ。
「相変わらず俺ら珍獣扱いだな」
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