IF 完全平和ルート
偽装結婚シリーズ
偽装結婚の舞台上
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はならん」
「何を好んでオレみたいな女を……。オレが言うのもなんだが……お前、女の趣味が最悪だぞ」
「――どうやらそうらしいな」
戯れに痣の消えた細い手首を口元へと近づけて、軽く歯を立てる。
白い肌に噛み跡がついたが、直ぐさま傷が癒されていく。つくづく便利な物だ、自動治癒能力と言う物は。
溜め息が聞こえたのでそちらへと視線を向けてみれば、呆れた様な瞳と目が合った。
「離婚する気はないんだな?」
「――くどい。何度も言わせるな」
「……じゃあ、離婚してくれる気は?」
「ない。数年前、偽装結婚の相手にオレを選んだのが間違いだったな」
やっと手に入ったのだ。みすみす逃す気などとうの昔に消え失せていた。
気付かない間ならば兎も角、気付いてしまったからにはもう遅い。
「なんというか……気味が悪くなる程素直だな。お前、本当にマダラか? 実は変化した――いたたっ!!」
「――今度間抜けな事を口にすれば、この腕へし折るぞ」
「…………この容赦の無さ……間違いなくマダラだな。しかも万華鏡まで出さなくても……」
未だに掴んだままの片手に力を込めれば、痣が浮かぶ。しかしそれも、すぐに自動治癒によって消え失せていく。
その様を見つめていれば、軽い掛け声と共に、奴の上体が寝具の上へと起こされる。
そうされた事で互いの目線が近くなった。
「正直な話……私には男女間での恋愛とやらはさっぱり分からんぞ――それでもいいのか?」
「――奇遇だな。オレもだ」
恋だの愛だの、そんな単純に片付けられる物ではないのだろう。
己自身、どうして此処まで惹かれていたのか分からなかったから、尚更長い間苛立っていたのだ。
――――ずっと焦がれ、求め続けて。
羨望と嫉妬、憧憬と希求、そう言った物ばかりが渦を巻いて。
己を対等な存在として認知してくれるその目が、軽やかに戦場を駆けては奔放に振る舞うその存在が、ただ単純に欲しかったのだと――今なら理解出来る。
「本当に……なんでこうも素直なんだ……。全く持って調子が狂う」
「ふん。文句を言うのであれば、この里のお節介な奴らに言え」
それと、気付かせた自分の迂闊さを呪えばいいのだ。
散々振り回されて来たのだから、これくらいしてやってもいいだろう。
そういう意味を込めた視線で見つめれば、目の前の相手の肩の力が抜ける。
慈愛の篭った眼差しは、よく里の子供らに向けている物と似ている様で、少しだけ違っていた。
「あーー、もう。参ったなぁ。此処まで言われてしまえばもう逃げられん。オレの……私の完敗だ」
「――そうか」
肩に額を乗せられる。
己の黒髪とは質の違う細い黒髪がその動きに合わせて、はらりと揺れた。
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