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鎮守府の床屋
前編
5.拉致。そして昼寝。
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 大浴場女湯の床をデッキブラシでこすり終えた俺は、次に手桶と腰掛けを磨くべく、山積みになっているそれらに目をやった。

 昨日、お客としてバーバーちょもらんまを訪れた隼鷹の髪を整えていた時のことだ。カットも終わりシャンプーも無事終わって、隼鷹のボリューミーな髪をドライヤーで乾かしていた。

「そういやさ。ハルは明日は大掃除は参加するの?」
「なにそれ? 初耳なんだけど」
「あれ? ハルが来たのは……」
「半年前ぐらいだな」
「あーそういやそっかー。もうすっかり馴染んでたから、数年前からずっといるような気がしてたよーアッハッハッ」
「お前といい川内といい球磨といい、ほぼ毎晩俺の店に酒盛りしにくるもんな。そんだけ毎晩酒盛りしてれば、そら随分長い付き合いだと勘違いもするだろう」

 これは本当の話。特に隼鷹は、夜の出撃というのがほぼないらしい。球磨や川内なんかは夜の出撃とかぶって俺の店に遊びに来ないときもあるが、隼鷹はほぼ毎晩うちに酒の肴をせびりに来やがる。おかげでうちに備蓄している俺用のおやつがどんどんなくなっていく。そうじゃなくてもうちの食料は球磨にどんどん食われているというのに……まぁほとんど提督さんからの横流し品なんだけど。あの人、なんでも自分で作っちゃうんだよな……自作ポテチのおすそわけなんて初めてだったぜ……。

「いやだってほら、あたしは夜戦が出来ないから夜は絶対に留守番でヒマでしょ? んでハルもお店を開いてるのは昼だから、夜はヒマなんだろうなーなんて。だったら飲みに行ってもいいかなーなんて。タッハッハッ」
「いやいや別に文句があるわけじゃないから。それよりもその大掃除って何だ?」
「半年に1回……年の瀬と夏に1回ずつ、鎮守府の大掃除をやるんだよ。いつもは掃除出来るほどの余裕なんてないから、その日だけは私とビス子が哨戒任務を担当して、その間に残った子で鎮守府の大掃除をするんだよね」
「ふーん……」

 確かに鎮守府の施設の掃除をしてるとこなんて今まで見たことなかったな……そして、自分がこの鎮守府に来て、知らない内に半年近く経過していたことにびっくりした。年を取ると時間が進むのが早く感じるとよく聞くけれど、なんだか一昨日ぐらいに店を構えた気がするんだけどなぁ……自分で『来て半年』と言ったけど、自分の発言にびっくりだ。

「そりゃ言い過ぎでしょハル〜」
「そうか? ……はい終わり!」
「ほっ! ありがと」

 終わりの合図に、隼鷹の両肩をポンと叩いてあげた。隼鷹は鏡の前で改めて自身の髪のチェックをすると、出来栄えに満足そうに力強く頷く。言われたとおりにあの髪型にしてるんだけど……隼鷹は顔が整ってるんだから、たまにはストレートにしてもキレイだと思うんだけどね。まぁ本人はこの髪型にこだわりがあるのだろう。


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