巻ノ三十一 上田城の戦いその五
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「このこともな」
「左様でしたか」
「会いはするが」
それでもと言うのだった。
「それでもじゃ」
「はい、降ることはですな」
「せぬ」
それはもう決めているというのだ。
「そのつもりはない」
「わかりました、では」
「うむ、お通しせよ」
昌幸は確かな顔でだ、信之に答えた。
「ここにな」
「わかりました」
こうしてだった、鳥居は昌幸の前に案内された。ここでだった。
昌幸はわざとだ、顔に暗い化粧をした。幸村は父のその顔を見て言った。
「病ということはですか」
「うむ、こうしてな」
「見せられるのですか」
「そうじゃ」
まさにとだ、青くさせた顔で笑って言うのだった。
「あえてな」
「そうされますか」
「うむ、鳥居殿は間違いなくわしが仮病だと思っておる」
「実際にそうですが」
「しかしじゃ、ここでわしが実際にこの顔で出るとじゃ」
病の顔で出ればというのだ。
「疑いな、そして主が病と見れば」
「相手はそれだけこちらを弱いと見る」
「弱いと見ればな」
「相手は攻める時はかさにかかりますな」
「策を使わずに数でな」
「それも策ですか」
「そうじゃ、変装も忍術の一つじゃな」
昌幸はこの術のことも言った。
「いつも言っておるな」
「だからですか」
「ここは病人になるのじゃ」
こう言うのだった。
「完全にな」
「そうなられますか」
「ついでに城の中に流行病が流行っている様にするか」
「流行病ですか」
「よくあることじゃ」
城の中で病が流行ることがというのだ。
「人が集まっておるからな」
「確かに。その分だけ」
「風邪なりな、風邪でも人は弱る」
それでと言うのだった。
「だからじゃ、城の中で芝居が出来る者がおればな」
「風邪のふりをせよとか」
「言え、たかが風邪というがな」
「されど風邪ですな」
「そうじゃ、行くのじゃ」
「それではな」
こう話してだ、そしてだった。
すぐにそうしたことが城の中に伝えられてだ、昌幸も鳥居に会うことになった。鳥居は昌幸のその青い顔を見てだった。
その目を唸らせた、そしてだった。
とりあえずだ、考えを隠して主の座に座った昌幸に一礼してから言った。
「この度参上したのはです」
「何ですかな」
芝居、だが完璧なそれでだ。昌幸は弱った声で応えた。
「鳥居殿ご自身が来られたのは」
「はい、真田殿にお話があって参りました」
鳥居は礼儀正しいが大きく強い声で答えた。
「この度は」
「と、いいますと」
わざとだ、昌幸は弱い声で言葉を返した。
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