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鎮守府の床屋
前編
4.初戦
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クッ……!!」

 信じられないことだが……アホ毛は再生していた。さっき俺が切ったその根本から……新たなアホ毛が悠然と伸び、そびえ立ち、存在を誇示していた。

「馬鹿なそんなッ! 俺は切った……切ったはずだ!! それなのになぜだッ?!」

 俺は再度アホ毛の根本にハサミを押し付け、その根本からアホ毛を切断した。今度は確実だ。切断したアホ毛が、一本目のアホ毛と同じく球磨の足元にぽとりと落ちていったことを俺は確認した。確実だ。今度は確実に切ったはずだ。

「甘いクマ……球磨のアホ毛は永遠に不滅だクマ……!」

 その直後、おれは信じられない光景を見た。アホ毛が無くなった球磨の、そのもふもふとした後ろ髪から、ひと束の髪の塊がぐぐっと持ちあがり……

「たとえ何人に何度切られようと……その度に第二第三のアホ毛が生まれ、その存在を誇示するために天高くそびえ立つクマ!」

 その束がピコンと立ち上がって、新たなアホ毛として球磨の頭上に君臨した。

「バカなぁああ!! そんなことがあってたまるかぁあああ!!」
「ムハハハハハ!! ハルごときに根絶されるほど球磨のアホ毛ではヤワではないクマッ!!」

 俺は何度も……何度も球磨のアホ毛を切った。ハサミがダメならカミソリを使った……何度も生まれ変わるというのならコームで寝かせ、ブラシで研いた……立ち上がる後ろ髪を抑制するため、ワックスや整髪料を使った……コシを失くすためにストレートパーマをかけた……思いつくありとあらゆる手段を講じて、この妖怪アホ毛女のアホ毛の根絶を試みた。

「甘いクマッ!! 縮毛矯正如きでクマのアホ毛は滅びぬクマぁあああ!!」

 しかしその度にアホ毛は立ち上がり、そして俺の努力をあざ笑うかのように天空に向かってそびえ立った。

 俺は……心が折れた。

「バカなっ……床屋が……髪のプロである床屋が……アホ毛に負けるだとッ……?!」
「まぁ、善戦したクマね。ただし、負けは負けクマッ!!」
「そんなバカな……俺の……俺の床屋としてのプライドがッ……!!」
「まぁ……ハルも腕が悪いわけじゃないと思うよ。ただ相手が悪かったってだけで」
「クックックッ……」

 じい様……俺があなたに憧れ、あなたの背中を追い求めるようになってからのこの十数年間の努力は……この、たった一人の妖怪アホ毛女にぶち壊されてしまいました……。

『じいさま! ハサミでちょきちょきするじいさまはカッコイイね!』
『んーそうか? んじゃハルも床屋さんになるか?』
『うん! なる! ハルもじいさまになる!!』
『そーかそーか! ハルも床屋さんになるか!!』

 俺がまだ物心ついて間もない頃にじい様と交わした会話が、頭の中で何度も繰り返された。じい様……あなたへの道のり
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