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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十二話 暴君が生まれる時
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大帝が向き合った問題もエーリッヒが向き合った問題も同じだ」
「なるほど、となると卿は忠臣エルンスト・フォン・ファルストロング伯爵か」
俺の声には皮肉が混じっていただろう。だがギュンターは何の反応も示さない。俺の方を見る事もしない。

「大帝は強権をもって犯罪を撲滅した。その大帝を助けたのが内務尚書ファルストロング伯爵だ。彼は劣悪遺伝子排除法が制定されてからは社会秩序維持局の局長を兼務して四十億もの人間を弾圧した」
「……それで? 何が言いたい」
ギュンターが俺を見た。

「何故そんな事が出来たと思う? 出世欲だと思うか? 或いは異常者だった?」
「……」
「卿はさっきエーリッヒは絶望しているのかと聞いたな」
「ああ」
「エーリッヒは絶望していない。しかしルドルフ大帝は人類の愚かさに絶望していたのだと俺は思う」
「……」

「ファルストロング伯爵は内務尚書だった。当時の人類社会の問題である麻薬、犯罪、汚職の撲滅を任されたんだ、不正の許せない生真面目で職務熱心な男だったんだと思う。大帝の右腕となってそれを撲滅していくなかで人類の愚かさを、それに絶望する大帝の姿を一番身近で見ていたのは彼だったはずだ」
「……」
そして今エーリッヒの一番傍で人類の愚かさを見ているのはギュンター・キスリング……。

「銀河帝国の皇帝が帝国臣民の愚かさに絶望している。ファルストロング伯爵は大帝に共感したんじゃないかな。大帝以上に人類の愚かさに絶望し、その愚かさを憎悪した。……彼は出世したかったのでもなければ異常者でもなかった、ただ大帝と同じ絶望を知ってしまった……」

「ファルストロング伯爵がテロで死んだ時、大帝は二万人以上の人間を容疑者として処刑した。酷い話だ、しかし大帝にとってファルストロング伯爵は臣下じゃなかったんだと思う。自分の絶望を知っている理解者だった、大帝にとっては同じ絶望を知った仲間だったんだ。その仲間が愚か者どもに殺された……」

「卿の言う通りだ。もしエーリッヒがルドルフ大帝になっていたら、俺はエルンスト・フォン・ファルストロング伯爵になっていただろう、何の後悔もせずにね。そして何億という人間を殺したに違いない」
「ギュンター……」
俺の呟きにギュンターが笑みを見せた。

「だがエーリッヒはルドルフ大帝にはならない、だから俺もギュンター・キスリングのままでいられる……」
「……」
「アントン、俺はその事に感謝しているよ」
綺麗な笑顔だった、誇りと歓びに満ちた笑顔だった……。















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