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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十二話 暴君が生まれる時
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だろう」
溜息が出た。こっちが地球教であたふたしてる間にオーディンはとんでもない事になっている。それにしても……。
「怒っているか……、少し疲れているように見えたがな」
「疲れてもいるさ」
ボソッとした口調だった。
「ずっと戦ってきた、新しい帝国を造るためにな。軍人も、改革派の政治家達も皆奴が引っ張ってきた。誰かに弱みを見せる事など出来ない、ただ先頭に立って引っ張ってきたんだ。そして今ようやく新しい国造りが始まろうとしている、ようやくだ。それなのに周囲にはあいつの足を引っ張る連中ばかりいる……。これで平静でいられるか?」
「……いや、難しいだろうな」
ボソボソとした口調だが声には怒りが有った。ギュンターはずっとエーリッヒの傍にいた。俺やナイトハルトよりも身近なところからエーリッヒを見てきている。だから思い入れが有るのだろう。
「あいつが言っていたよ。国家としての制度、体制が疲弊している、歪んでいるんだと思っていた。だからそれを是正すれば良いと思っていた。でももしかすると人間そのものが疲弊しているのかもしれないってな……」
「それは……」
良くないな、エーリッヒが人間に対して絶望しているのだとすれば良くない、いや危険だ。
「ギュンター、あいつ、絶望しているのか?」
「……」
「危険だぞ、分かっているのか? エーリッヒは国家の指導者なんだ。その指導者が絶望すれば統治にも影響が出る。絶望の怒りは国民に向けられるだろう。エーリッヒを暴君にするつもりか!」
気が付けば身を乗り出し押し殺した声で囁いていた。
「安心していい、そうはならない」
「しかし」
「あいつに聞いたんだ。絶望しているのかってな」
「……」
ギュンターの顔が歪んでいる。哀しいのか、それとも苦しいのか……。
「そんな事は許されない、そう言っていたよ」
「……」
「自分はこれまで二千万人近い人間を殺した。これからもその数字は増えるだろう。後戻りも逃げ出すことも投げ出すことも出来ない。前へ進み銀河を統一して戦争の無い世界を作るしかないんだ、とね……」
「……」
「そしてこうも言っていた。自分が殺した人間達は絶望を抱いて死んでいった。自分は生きている、生きている以上、絶望を抱くことなど許されないと……」
「ギュンター……」
哀しいんじゃない、苦しいのでもない。ただ切ないのだ。帝国最大の実力者がもがき、苦しみ、それでも懸命に絶望から目を逸らし希望を見ようとしている……。
「エーリッヒを見ていてルドルフ大帝の事を考えたよ。大帝の忠臣、エルンスト・フォン・ファルストロング伯爵の事もね」
「どういう事だ」
俺の問いかけにギュンターは少し口籠った。視線を逸らし考える風情をしている。
「似ていると思った。麻薬、犯罪、汚職、
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