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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父
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情を曇らせるのは心苦しいが、良くも悪くも、現状が未成年の自分にできる限界だ。まだまだ足りないけど、この程度の恩返しはさせて欲しい。
 言葉にこそ表さないが、ミートリッテの行動原理はいつでも、ハウィスを筆頭とした恩人達への感謝にあった。
 「帰りは遅くなりそうだから、夕飯は先に食べちゃってね」
 木製のテーブルに二人分の朝食を並べ、向かい合わせで椅子に座る。
 自然の恵みと村人達の労働に手を合わせてから頬張った料理は、贅沢した甲斐あってどれも美味しい。
 特にスープは、じっくり煮込んだおかげでとろりと溶けるオニオンの舌触りが絶妙。独特の刺激もびっくりするほどの甘味に変わっていて、薄切りした時に目を痛めた辛みは何処へ消えたのかと首を捻りたくなった。
 「夕食より後の時間まで? もしかして、観光?」
 「ん………今回は散歩みたいな距離だけど」
 観光とは、シャムロックが各地で下見に奔走する為の、表向きの口実だ。
 怪盗になると決めた当初は、十日以上家を空ける場合もあるし、路銀は二年分のへそくりでなんとかなるけど、未成年の行動にしては唐突で、許可を得るのは難しいかとも思ったのだが……見聞を広めて自分の糧にしたいと言ったら、あっさり承諾してくれた。
 実際勉強してる面もあるので、嘘は言ってない。
 言ってないが……罪悪感は大きい。
 「良いわよー。世界を知るには目と足が肝心だもんね。どんっどん出歩きなさい。でも、不貞の輩には十分気を付けるのよ? ミートリッテはとびきり可愛いんだから。怪しい男には絶対! 付いて行っちゃ駄目!」
 昨夜、拉致されたよ……とは言えない。
 「もう! 私、ちっちゃな子供じゃないんだよ。ハウィスこそ、酒場で暴力男に絡まれないでね。海の男は黒いしでかいし、粗暴者ばかりで嫌いよ」
 「あはは! 残念ねぇ? 色白で控えめで頼りない王子様が南方領に居なくって。」
 「……訂正する。男は全員嫌い。」
 「ふふ。ミートリッテ、かーわいいっ!」
 女という生き物はどうしてこう、男と女をくっ付けたがるのか。隙あらば恋愛話に持ち込もうとする性質が、ミートリッテには不思議でならない。
 ハウィスの場合は、仕事で毎日夕方から深夜まで男ばかり相手に酒や料理を提供してるから、女の華やぎ成分が足りてないのかも知れないが……そういったものを自分に期待しないで欲しいと、切実に思った。
 朝食最後の一口をよく噛んで喉に流し、逃げるように席を立つ。
 「とにかく、夕飯の時間まで家の事はお願い」
 「はいな。遅刻ギリギリでしょ? 洗い物もやっとくわ。支度して行ってらっしゃい」
 「ありがと! じゃ、今度何かあったら代わるね。行ってきます!」
 「気をつけてねー」
 使った食器を洗い場に置き、二階に与えられた部屋で素早く作業服に着替え
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