暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父
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動きと、何重にも警戒線を敷く獲物周辺をどうやってか事前に調べ尽くしていたとしか思えない手腕で、貴族達に「山猫」と恐れられている。
 当たり前だが、これまでに顔どころか性別だって誰にも知られた例は無い。「痕跡は髪一本も残さない」を徹底していたのに、海賊達はどうやってミートリッテに行き着いたのか……不意打ち過ぎて、してやられた感が半端無かった。
 しかも、目的の物を手に入れたら解放してやるめいた台詞を吐いていたが、仕事を無事に終わらせたとしても弱味を握られた事実は変わらない。使えるカードを一度きりで捨てる輩じゃないのは、傍目にも明らかだろう。
 今回の仕事を成功させれば、絶対に次がある。次を成功させればまた次、更に次。
 その都度、人質の将来的な安否を匂わせて……完全な泥沼路線だ。冗談じゃない。
 「根性汚い盗人共の手足になりたくて始めたんじゃないっての。バーデルの領海に沈んじゃえ。くそったれ!」
 昨夜の海賊達を思い浮かべながら、茹でたポテトを力の限りザシザシと潰しまくる。金物のボウルが調理台の上でガタゴト忙しく躍動した。
 すると
 「おはよー……なぁに? 随分荒れてるのね、ミートリッテ」
 暁の手前頃に仕事から帰って二階の自室で就寝していた同居人が、寝惚け顔をひょこっと覗かせた。
 左肩で巻いた金色の髪が柔らかく弾んで、大人な色気を釀し出す群青色の虹彩が瞬く。
 「あ。おはよう、ハウィス。ごめん。煩かった?」
 「んーにゃ。ちょっとお腹が空いただけよ」
 もう朝食の時間かと慌てて換気用の窓を確認すれば、硝子の向こうに広がった空はすっかり青く染まっている。回想に気を取られて調理がおざなりになっていたようだ。
 急いでテーブルの準備もしなければ、一日の予定が狂ってしまう。
 「もう少し待ってて。今日は贅沢に、トースト二枚とポテトサラダとオニオンスープよ!」
 「ぅわお素敵! でも、大丈夫? 今月のお給料……」
 「お金の話は無ーしッ! 働き盛りの可愛い娘に、全部お任せなさいな」
 からから笑ってウィンクを一つ。
 何かを言われる前に、手早く盛り付けを始めた。
 ハウィスにはシャムロックの正体を話してない。万が一同居人が犯罪者であると知られたら、間違いなく彼女に迷惑が掛かるからだ。
 七年前、自分自身の生活も危ういのに、行く当ても無くさ迷うミートリッテを快く拾ってくれた優しい女性。汚い子供を笑顔で受け入れてくれた温かい村の人達。「怪盗シャムロック」は、困窮する彼らの助けになりたくて勝手に始めた裏稼業。巻き込んでしまっては意味がない。
 なので、日中は自分と怪盗の無縁を装う為に村の果樹園で仮働きさせてもらい、雀の涙な報酬を必死に掻き集めて生活費に充当している。
 ほぼ全額二人分の食費に消えていくと知るハウィスがたまに表
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