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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父
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った酒瓶を床へ放り投げ、足を降ろして上半身を軽く乗り出す。
 「指輪だ」
 「……どんな?」
 「銀の台座に丸型の青い石が付いてる。場所は礼拝堂正面、でかい女神像の左手首」
 「手首……? 指輪なのに?」
 「鎖を通して腕輪にしたのさ。まさかって所に隠すのが本業の技なんだよ。……ああ、独学素人上がりのアンタにゃ解んねぇか」
 さすがにキレた。
 盗みに学びも素人も本業もあるものか。
 大体、好きでこんな道を選んだ訳じゃない。他に方法が見付からなかっただけだ。
 「その独学素人上がりに盗みを強要してんのは誰よ。自分自身のうっかりを他人に拭わせるヘボ海賊の分際で、上から目線は止めてくれる?」
 「はは。威勢が良いのは大いに結構! だが、時と場所と状況は常に頭で押さえときな。今直ぐその可愛いネグリジェを引き裂いて壊れるまでヤっても、俺達に不利益は全く無ぇんだぜ。アンタは仕事が速いから使おうと思っただけ。別のヤツに任せても一向に構わないが、その場合はオネェサマの無事も保障外だ。……どうする?」
 テーブルの上に肘を立て、重ねた両手の甲に顎を乗せる男。
 黒い瞳がギラリと不気味に光るのを見たミートリッテは、口惜しさ紛れに小さな声で「クソ野郎」と吐き捨てるのがやっとだった。
 「隣の女の人。これ以上乱暴しないで。本当、男って最低。品性の欠片もありゃしない」
 「理知を気取るなよ泥棒女。アンタも所詮は動物と同じ。やる事ヤって産むモノ産んで、悦楽と自己満足に浸る獣だろぉが」
 「胸糞悪い。それが女の在り方だと思ってんなら、今直ぐ魚に食われて海の底で白骨化してくんない? あとね。自分を支えるので手一杯だから、子供なんかは一生産まないわ。背負い切れないものを望むほど、莫迦でも無責任でもないの、私」
 「……責任……ねぇ?」
 ふんっ! と横向いた少女の耳に、男の含み笑いが滑り込む。
 自嘲ともミートリッテに対する嘲りとも取れる溜め息に僅かな疑問を持って振り返るが、目蓋を伏せた男の表情は読み取れない。
 「まぁ良いさ。受け渡しは五日後の今頃に、この場所で。よろしく頼むぜ、アルスエルナ王国の怪盗・シャムロックさん」
 背後の二人が扉を開いて左右に避けた。外側の床には見慣れた女物の靴が一足、ご丁寧に踵を揃えて置かれている。
 話は終わりか。
 ミートリッテは不機嫌を隠さず、酒瓶の男に背を向ける。
 「アンタが戻って来るまで、オネェサマは俺達が大事に見守っててやるよ。大事に、な」
 「……っ!」
 怒りに肩を震わせる怪盗は、床に穴を空ける勢いで、不本意な一歩目を踏み出した。



 怪盗シャムロックは、アルスエルナ王国南方領を中心に活動する義賊だ。
 五年前に突如として現れてからというもの、鍛え抜かれた騎士すらも翻弄する素早い
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