第一章
[2]次話
イエロージャーナリズム
最初は違った。
アメリカ合衆国と日本の関係は然程悪くはなかった。だがそれは次第に変わってきていた。
少しずつアメリカ国内での日本への反感が高まってきていた、特に西海岸一帯でだ。
その西海岸の中でも発展著しいカルフォルニア州の中心都市ロサンゼルスでもそれは同じだった。むしろこの街では日本への悪感情がとりわけ高まっていた。
その状況を見てだ、肉屋の親父トーマス=ヘストンは青い目とへの字口が印象的なその四角い顔をいぶかしめさせて常連客でいつも肉を買いに来る喫茶店のマスターであるウォルト=オーフェンに彼の痩せた身体と顔、それにグレーの瞳とブラウンの少し白いものが混ざってきている髪を見つつ言った。
「マスター、日本人見たか?」
「日本人?」
「ああ、この街にいないよな」
「そういえばいないな」
オーフェンはすぐにヘストンに答えた。
「というかアジア系自体がな」
「少ないだろ」
「五月蝿い連中がすぐに追い出すからな」
「ああ、何かとな」
「俺は別にいいと思うんだがね」
「俺もな。黒人が店に来てもな」
それこそと言うヘストンだった。
「別にいいさ」
「あんた売ってるよな」
「お客ならな」
「俺もさ。ちゃんとマナーを守ってくれるのならな」
オーフェンもこう言う。
「別にいいさ」
「けれど最近何か違うな」
「何か日本人に気をつけろとかな」
「そんなこと言う奴いるな」
「それも増えてきている」
「どういうことなんだ?」
ヘストンはここでまた首を傾げさせて言った。
「最近な」
「最近っていうかここ数年な」
「何処からか出て来た感じだな」
「新聞とかで書いてるらしいな」
「新聞!?」
新聞と聞いてだ、ヘストンはオーフェンに怪訝な声で返した。
「俺が買ってる新聞にはそんなの書いてないぞ」
「新聞は新聞でもな」
「どんな新聞だ?」
「あれだよ、面白おかしい記事ばかり書いてるな」
「黄色い紙の新聞か?」
「それだよ」
まさにそれそのものだとだ、オーフェルはヘストンに話した。彼の店先に並んでいる肉でいいものはないかを見ながら。ヘストンはその店の前にいる。
「そうした新聞を読んでな」
「あれこれ言ってるのか」
「日本に気をつけろとかな」
「日本人が何かするとかか」
「日本が世界を征服するとかな」
「そんなのあるかよ」
絶対にとだ、ヘストンはその言葉を一笑に伏した。
「日本って合衆国の遥か西の方にある小さな国だろ」
「ほんの島国だよ」
「何でそんな国が合衆国に攻めて来るんだよ」
「しかも世界を征服するらしいな」
「それはどんな小説のネタだい?」
笑ってだ、ヘストンはこうオーフェルに言った。
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