暁 〜小説投稿サイト〜
竜のもうひとつの瞳
第十章〜奥州へ帰ろう〜
第四十九話
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
けど……まぁ……それくらいなら、いいかな。

 言われた通りにしっかりと胸に抱いてやる。
母親が子供にするように髪を撫でてやれば、兵はとても満足したような顔をしていた。
うっかりそんな表情を見ていて涙を零しそうになったけれど、今はまだ泣くわけにはいかない。

 「俺……景継様を、ずっと……」

 「……うん、ありがとう。今まで良く頑張ってくれた」

 景継様に褒められた、そう言って兵は本当に安らかな顔をしていた。

 「少し、休んでも……いいっすか? 起きたら……また、働きますから……」

 「ああ。……ゆっくり休め」

 そっと触れるだけの口付けを兵にする。兵は嬉しそうに笑って、目を閉じた。

 「……おやすみ」

 「お休みなさい……」

 ぱた、と手が落ちて兵は本当に安らかな顔をして旅立っていった。
本当に零れそうになる涙を、唇を噛んで堪える。

 ……泣くな、まだ泣いちゃ駄目だ。私まで泣いたらどうしようもなくなるほどに士気が落ちる。

 きつく拳を握って、この兵も薬草を持って来た風魔に託した。
きちんと弔ってやりたいが、如何せんこの状況だ。奥州の地で弔ってやれないことを許してもらいたい。

 「……姉上」

 気遣うような小十郎の手を払って、私は他の兵達の手当てに回った。



 しばらくはこんな状況が続く。持つだろうか、私の心が。

 ……いや、持たせなきゃ。彼らの為にも。そして、政宗様や小十郎の為にも。

 溢れそうになる悲しみを、私はそっと自分の心の奥底にしまいこんで、ただ目を逸らす。悲鳴を上げている自分の心には気付かないふりをした。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ