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竜のもうひとつの瞳
第十章〜奥州へ帰ろう〜
第四十九話
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 「皆、一旦止まって手当てをしよう。政宗様もきちんと手当てがしたい」

 そんなことを伝えると、全軍が立ち止まってその場に腰を下ろした。
精神的には言うまでもないけど、体力的にも皆限界なんだ。一度休ませないと、松永軍とぶつかったら全滅する。

 とりあえず道具がほとんど何もないから、陣幕やら旗やらを裂いて手当ての布に当てた。
小十郎はそれを咎めてきたが、今はまともに取り合っている状況でもない。

 「その羽織裂いて、手当て用の布にされたい?」

 政宗様から賜ったという黒龍の次くらいに大事な羽織、それを引き合いに出してやれば、素直に引き下がってくれた。
まぁ、あんな革製の羽織なんか裂いて手当て用の布にしようとは思わないけどね。

 手当てをしてやっている奴らは誰も彼もが重傷で、軽症や無傷って人間は殆どいなかった。
怪我をしていないのは本陣の守りを任されていて石田の攻撃を免れた連中ばかりで、
今はその人間を中心的に動かして見張りや手当てをさせている。
使える人間が少な過ぎる分、重労働にはなっているとは思うが、事態が事態だ。頑張ってもらうしかない。

 で、肝心の怪我人はというと。

 「景継様、痛ぇっすよ〜」

 こんな泣き言を言ってくる連中はまだいい。それだけの元気があるってことだから、そこまで私も心配はしていない。
ただ問題は、こんな泣き言も言えないほどの重傷者の方なのよね。
この街道に入ってからも、何人もの兵があの戦で負った怪我が原因で死んでいった。
流石に死んでしまった彼らを共に連れて行ってやるわけにもいかず、かといってその辺に放置すればこの道を通った証明にもなってしまう。
だから已む無く風魔に処理を任せたけど、一体どうなったのかは分からないし、それを聞く気にもなれない。

 「かげ、つぐ……さま……」

 兵の一人の手当てに回ったところで、息も絶え絶えに名を呼ばれた。

 「大丈夫?」

 「へへっ……突っ走るなって、言われてたのに……突っ走って、このザマっすよ……情けないでしょ……?」

 無理して笑うこの兵も、多分もうこの辺りで命を落とす。
止血はしていたけれど出血がなかなか止まらなくて、ようやく今になって血が止まった。
……これは止血が効いたんじゃなくて、流す血が無くなったってことなんだと思う。

 「最期に、一個だけ……お願い、聞いてもらっても……いいっすか?」

 「……ヤラせろってのは無し。胸揉ませろとか、そういうのも聞かないぞ」

 言わないっすよ、なんて力無く笑っている様が痛々しい。

 「だ、抱いてもらって……いいっすか……? 景継様……母ちゃんみたいな、いい匂いが、するから……」

 母ちゃん、ね。それはそれでとても複雑な心境なんだ
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