第三章
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「一切手段を選ばない」
「ユダヤ系を助けていますと」
「私もだな」
「何時何をされるかわかりません」
ドイツ音楽界の至宝であり底知れぬ知性と教養を持つ彼でもというのだ。
「お命さえも」
「そうだな、しかしだ」
「それでもですか」
「私は最後の最後まで彼等を助けたいのだ」
「ドイツに残られて」
「誰かがドイツに残らないとだ」
そうしないと、というのだ。
「誰があの人達を助けられるのだ」
「それは」
「そうだな、私が狙われるとすればおそらく最後の最後だ」
ゲシュタポや突撃隊にというのだ、ナチスの暴力を担う者達に。
「だからだ」
「ドイツに残られて」
「彼等を少しでも助けたいのだ」
「そうですか、しかし今のドクトルはです」
学者はあえてフルトヴェングラーの国外での昨今の評判を彼自身に話した。
「ナチスの協力者と言われています」
「知っている」
これがフルトヴェングラーの返事だった。
「しかし政治と音楽は別の筈だ」
「だからですか」
「私は音楽家として彼等を助けているのだ」
「そのことを仰らないのですか?」
「政治に疎い私でもわかる、今私がナチスを国外で批判すればな」
そうしたらというのだ。
「もうドイツ圏に入られなくなる」
「絶対に」
「では私の仕事を誰がしてくれるのか」
「それは」
学者は返答に窮した。
「おそらく」
「いないな」
「はい、どの方も」
そこまでの力がないというのだ、音楽界の巨匠として絶対の地位を築きナチスでさえ進んで様々な地位を与えようとしている彼程には。
「ドクトルまでは」
「私は私の力に自惚れない、しかしだ」
「その力で人を救えるのなら」
「この国に残る、そして彼等を助ける」
「そうされていきますか」
「最後の最後までな」
「では何かあればです」
その時はとだ、学者はフルトヴェングラーにこう返した。
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