第二章
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「ドクトルのお考えがナチスに合うとは」
「では己の信条を踏み躙ってナチスに尻尾を振ったのだ」
「そうとは」
「そうに決まっている、絶対にだ」
トスカニーニはここで癇癪を爆発させた、それが身振りにも出ていた。
「あいつはナチスの犬だ、そうなったのだ」
「そうですか」
「そうだ」
こう言って引かないのだった、こう言っているのはトスカニーニだけではなかった。彼は確かに極端に怒っているが。
他の多くのクラシック界の者達もだ、フルトヴェングラーには疑念を抱いていた。
「ヒトラーに媚を売っているのか」
「そこまで地位が欲しいのか」
「それとも名誉が欲しいのか」
「金が欲しいのか」
「自分の思想はどうでもいいのか」
「信念を無視しても平気なのか」
「ドイツ知識人の教養を守る立場だった筈だ」
それこそ吟遊詩人の頃から続くそれのだ。彼は音楽家としてそれを守るべき圧倒的な教養の持ち主でもあるとされていたのだ。
「それで何故ナチスに従う」
「ナチスの何処に教養がある」
「あの教義は破綻している」
ナチスのそれはというのだ。
「人種主義と社会主義のミックスに過ぎない」
「党員はならず者ばかりではないか」
「ヒトラーもゲッペルスも誰もが似非の知識と教養ばかりだ」
当時の欧州の貴族主義を主体として知識人から見ればそうなっていた、ナチスは下品な大衆の偽物の教養しかないとだ。
「その連中に何故従う」
「何故ドイツに残る」
「今の彼はおかしい」
「かつての彼とは違う」
多くの者がこう疑念を持ち批判していた。だが。
フルトヴェングラーはドイツに残り続けた、そして。
ヒトラー、多くのナチス党員達の前で指揮を続けた。だがその中で。
ユダヤ系の音楽家達を影に日向にだ、何とかだった。
守っていた、そしてだった。
そのことをだ、ドイツにいるユダヤ系の音楽家達は密かに感謝して話していた。
「ドクトルがいてくれるからだ」
「我々は何とかやっていけている」
「あの人が全力で守ってくれている」
「力を尽くしてな」
「有り難いことだ」
「あの人がドイツの良心だ」
「ドイツ音楽に残った良心だ」
こう話していた、彼等は。
「頼ってきた人は誰でも助けてくれる」
「あの人はどれだけの人の出国を助けてくれたか」
オーストリアから他国への出国、即ち亡命をだ。彼はその手助けもしていたのだ。
「確かにヒトラーの前で指揮をしている」
「しかしナチスの与える役職からも政治的活動からも身をかわしている」
「ユダヤ系の奥さんがいる楽団員の演奏を守った」
「休むことなく助けてくれているのだ」
「あの人はパンドラの箱に残った希望だ」
こうまで言う人もいた、そして。
ある学者がだ、フルトヴェングラーにこっそ
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