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鎮守府の床屋
前編
3.賑やかな人たち
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「というわけで、本日の午後から本格的に開店します」

 店舗の準備を終えた翌日の朝、執務室に出向いた俺は提督さんにそう告げた。

「そうかよかった!! これでやっと艦娘たちも女の子らしく髪を整えてやることが出来る!」

 提督さんは俺の報告を受けて、嬉しそうな表情で開口一番そう答えた。年齢でいえば俺とさほど変わらないはずの提督さんだが、こういう時の表情は、俺に故郷のオヤジを思い出させた。

「3人の艦娘が手伝ってくれたおかげで、思ったより早く準備が整いました。最後の点検を済ませた後、開店です」
「そうか! ありがとうハル!!」
「礼なら暁ちゃんたちに言って下さい。彼女たちが手伝ってくれたから、開店を早めることが出来たんです」

 約一名、俺の頭に霧吹きで水をかけ続けた妖怪アホ毛女もいたけどな。

「そうか! よかった……本当によかったよ!」

 提督さんはそういい、屈託のない朗らかな笑顔を俺に向けてくれる。人間、本当に嬉しい時ってこんな笑顔をするんだ……と妙に感心出来るほどの邪気のない笑顔だ。俺はこの笑顔を曇らせてしまうおそれのある、妖怪霧吹き女の霧吹きっぷりを提督さんに伝えることは、やめておくことにした。

「ん? どうした?」
「いや別に。ところで球磨はどうしたんすか?」
「あぁ球磨か。球磨なら今日は朝から出撃だ。近海の哨戒任務についている」

 この瞬間、俺の胸に不快な衝撃が走った。『ドクン』と心臓が一瞬高鳴り、痛いほどの鼓動が一拍だけ駆け抜けた。昨日の『戦死したクマ』という球磨のセリフが1回だけ、頭の中ではなく耳元で聞こえた気がした。

「哨戒……ですか」
「ああ。ここのところ目立った戦闘はないが、念の為だ。どうかしたか?」
「……いえ」

 戦争してるんだもんな。あのアホ毛女が出撃することもあるんだもんな。慣れなきゃな。

「みんなには俺から伝えておく。ハルは午後一から開店できるよう、準備を整えておいてくれ。俺も今日おじゃまするよ」
「了解です。提督さんも髪が伸びてますからね。さっぱりさせますよ」
「あと床屋といえば髭剃りだな。そっちも頼む」

 提督が往年のチャールズ・ブロンソンのように自身の顎に手をやってさすっている。注意深く見てみると、提督の無精髭が少々伸び気味なことに気付いた。

「了解です。カミソリ研いで待ってますね」
「ああ!」
「あ、ところで提督さん」
「ん?」
「提督さんを入れて、ここの鎮守府って何人いるんすか?」
「俺を入れて8人だ。艦娘だけで7人だな」
「意外と少ないっすね」
「まぁ、な」

 理由を聞こうと思ったが、提督さんの微妙に苦い表情を見て察しがついた俺は、それ以上この話題には触れまいと思った。

 こうして予定通り、午後一には
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