前編
3.賑やかな人たち
[6/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
た。スキップを踏み、鼻歌を歌いつつ『スッキリ〜♪ スッキリ〜♪ あいつらも喜ぶぞ〜ふっふーん♪』とごきげんで床屋を出て行く男性を、俺は初めて見た……。
その後は本日は特に客も来ないまま閉店。いささか寂しい開店初日ではあるが、ビス子と提督さん、二人の極上の客に来てもらえたのは、幸先の良いスタートといえる。あんなにうれしそうに店を後にしてくれる客なんて今までいなかった。なんだか初めて床屋として店に立った時のことを思い出させてくれた、うれしい初日だった。
この地に店を出せて、本当によかった。客数的には売上が厳しいが、軍から補助金と危険手当も出る。鎮守府の施設も使い放題だし、生活に困るということはないだろう。
日が陰ってきた頃、店を閉店するべくポールサインの回転を止めて後片付けをしている時の事だった。カランカランと入り口のドアが開く音が鳴り響いた。
「ごめんなさい。今日はもう……」
「ただいまだクマ〜」
入り口を開いた犯人はこの妖怪アホ……球磨だった。今日も今日とて強靭なアホ毛をぴょこぴょこ動かしながら、入り口で仁王立ちをしている。
「なんだ球磨かよ。ここはお前の家じゃないぞ?」
「んなこと言われんでもわかってるクマ」
「んじゃなんでただいまなんだよ」
「ヒドい床屋だクマ。せっかく任務から無事帰ってきたから挨拶しにきたのにっ」
……そりゃ失礼しました。
「おかえり」
「クマクマっ」
おれのおかえりを聞いて満足したのか、球磨はホクホク顔でワゴンの上の霧吹きに手を伸ばし、それを俺に向けて発射し始めた。
「ハルー。晩御飯食べに行くクマ」
「それはいいから、まず俺に霧吹きを吹きかけるのを止めろ」
「球磨姉ー。まだー?」
俺が球磨の霧吹き攻撃を甘んじて受けていると、再び入り口からカランコロンと音がなり、同じくセーラー服を着たおさげの子が店に入ってきた。えらく球磨と雰囲気が違うが、球磨のことを『球磨姉』と呼ぶあたり、ひょっとして球磨の妹か?
「その通りだクマ」
「人の心を読むなよ」
「あなたが新しい床屋さんのハル?」
俺に近づいてジト目で俺を見る彼女は、言われてみれば球磨にちょっと似た雰囲気を持っているような気がする。なんというかマイペースな感じというか、のほほーんとした雰囲気が似ている……
「そうだよ。君は?」
「私は北上。よろしく〜」
このおさげの子、北上は俺の質問に対し、なんとも気の抜けた返事を返す。やっぱこの子あれだ。マイペースな感じは姉譲りだ。今まさに霧吹きでびしょぬれになった俺の頭をぐしゃぐしゃにして遊んでいる姉によく似た、マイペースっぷりだ。
「おうよろしく」
「提督から聞いたよ? 初対面で球磨姉にぶん殴られたんだってね。災難だっ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ