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鎮守府の床屋
前編
3.賑やかな人たち
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とだ。確かに潮風によく当たっているためか、よく見ると毛先が少し傷んでいる。傷んだ所を手際よくチョキチョキと切っていき、スッキリさせた後にシャンプー台に連れて行って、丹念にシャンプーしてあげることにする。

「ビス子〜。かゆいところはないか〜?」
「左足の裏の……」
「却下だ」
「まだ何も言ってないでしょ?!」
「たとえ最後まで言ったとしても却下は変わらん!」

 ビス子のシャンプーが終わり、散髪台に再び座らせようとブースに戻ってくると、ソファに据わる暁ちゃんの隣に提督さんが座っていた。午前中に話していた通り、来店してくれたようだ。

「よっ。約束どおり来たぞハル」
「ありがとうございます。んじゃビス子の次ですね」
「おう」
「私のこと、もはやナチュラルにビス子って呼んでるわね……」
「ビス子もおれのことはハルでいいよ」
「了解よハル」

 ドライヤーでビス子の髪を乾かしていく。もふもふの球磨や柔らかい暁ちゃんの髪とは異なり、彼女の髪はしなやかでさらさらだ。手に持つと、さらさらと手から落ちていく感じが心地いい。球磨とはまた違う感じで、ずっと触っていたい気持ちになる髪だ。

 ……あれ? 俺、今なんて思った?

――クマクマっ

「しっかしホント、キレイな金髪だなぁ〜……」
「なんせ一人前のレディーだからね! 当たり前よ!!」
「はいはい……よし。おわり!」

 髪を乾かし終わり、ドライヤーを止めてビス子の両肩をぽんと叩いてあげる。ビス子は『ほっ!』と気持ちよさそうな声をあげたあと、立ち上がって提督さんの方を向き、得意げに髪をファサッとなびかせていた。

「どお提督! このビスマルク、より一層美しさに磨きをかけたわよ!」
「うん。今までろくに髪を整えることも出来なかったからな。キレイになったよビス子」
「よかった!」

 提督に褒められたのがよほどうれしかったようだ。ビス子は上機嫌で俺の方を振り返り、満面の笑顔でお礼を言ってくれた。

「これもハルのおかげね。Danke!」
「こちらこそ。来てくれてありがと。また来てくれ」
「もちろんよ! また髪を整えてもらうわ!!」

 なんだ。こんなところも暁ちゃんと同じで素直でいい子じゃないか。ビス子は100万ドルの笑顔で暁ちゃんと共に店を後にした。足はスキップを踏み、手は暁ちゃんとつないで、本当に弾むように帰っていった。そんな様子の客を見送るなんてそうそうないことだから、なんだか見ていると胸が暖かくなる。

「あんなに喜んでくれるとは思ってませんでした」
「言ったろ? みんな心待ちにしてたんだ」
「ですね。来てよかった。床屋冥利に尽きますよ」
「そう言ってくれると、おれも嬉しい。……さて」
「次は提督さんっすね」
「ああ。頼む」

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