第一章
[2]次話
スクマーン
ブルガリアはヨーグルトと薔薇の国だ、このことはこの国で生まれて日本で留学しているニコラエ=ベニチャコヴァーも同じだ。
彼はよくだ、日本の友人達にこう言われていた。
「やっぱりヨーグルト毎日食べてて」
「薔薇が一杯あって」
「そうした風に暮らしてるの?」
「ブルガリアだと」
「うん、まあ確かにね」
実際にとだ、ニコラエも答える。琴欧洲程ではないが大柄で逞しい身体をしている。くすんだ金髪で目は青灰色だ。眉は太く細い顔ははっきりとした目に引き締まった唇、それに高い鼻とかなり整った感じになっている。
「ヨーグルトは多いね」
「ああ、やっぱりね」
「よく食べるんだ」
「ルーマニアだと」
「そうなんだ」
実際にという返事だった。
「僕もヨーグルト好きだしね」
「そうなんだね」
「そういえば日本でもよく食べてるね」
「ここでも」
「うん」
その通りという返事だった。
「身体にもいいしね」
「やっぱりヨーグルトいいよな」
「美味しいし身体にもいい」
「だからニコラエもそうしてるんだな」
「毎日食べてるのね」
「そうなんだ、それでだけれど」
ここで彼は友人の日本人達に日本のことを聞き返すのが常だった、留学生として日本のことを学んでいるからだ。
しかし彼には悩みがあった、その悩みは。
実家であるブルガリアに一時帰国する際にだ、一時の別れに送迎会を開いてくれた日本の友人達にこう漏らしたのだ。
「ブルガリア料理って知ってる?」
「ヨーグルト?」
「いや、他にもね」
苦笑いで言うのだった。
「あるよね」
「ええと、お肉とか」
「お野菜?」
「お酒はワイン」
「そういうの?」
「まあね」
一応という返事だった。
「食材はね」
「ああ、まあ普通だよな」
「肉とか野菜は何処でも使うか」
「日本でもそうだし」
「それは」
「うん、それはね」
言葉を濁したニコラエだった、そして。
送迎会で来ている居酒屋のししゃもを食べつつだ、彼等に言った。
「こうしたのはね」
「ブルガリアにはないね」
「やっぱり」
「うん、ないよ」
こう言うのだった。
「お魚は食べてもね」
「海の幸は少ないよね」
「どうしても」
「海はあるよ」
ニコラエは一応、という口調で答えた。
「黒海に面していて」
「ああ、あの」
「ロシアの海軍がある」
「クリミア半島もあって」
「ギリシア神話にも出てたわね」
「そう、その黒海にね」
まさにというのだ。
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