暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
2部 Aincrad:
第1章始節 奇縁のプレリュード  2023/11
1話 薄闇の片隅
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もないのだが、プレイヤーの目を忍んでいた相手だ。まったくの無警戒では餌食になりかねないのがSAOという世界(ゲーム)である。加えて、久しぶりのソロプレイだ。三人で行動することに慣れた身ではあるが、このままヒヨリとティルネルが戻ってくるまでの五日間を待ちぼうけで過ごすというのも気が引けるし、前線における俺の立ち位置は危きを窮める。クーネ達の依頼に応えられなかったこともある以上、ここは俺が単独で出向くことで対応する。

 湯呑の中身を空にして洗った後、装備を確認してから拠点から一歩外へ出る。
 斜陽が上層の底面をオレンジに染めるのを見つつ、思いの他に過ごしやすい気候にあることに気付く。今日日の珍しく安定していたらしい気候パラメータのことを思うと、日中であれば麦畑を揺らす『これぞ田舎』というような光景を拝めただろうが、生憎ながら景色と快晴では腹も満たせない。
 ふと湧いて出たロマンチシズムを脳内のポップアップ・メニューから廃棄して、俺は現在の仮ホームタウン、第三十五層《ミーシェ》の中心である《転移門広場》へと足を運んだ。牧歌的な街並みに鎮座するモニュメントめいた石のオブジェの前に立ち、記憶の中で戸締りの確認を今一度だけ繰り返してから、目的地を唱えた。


「………転移、ラーベルグ」


 音声を認識し、視界が青い燐光に覆われるのも一瞬。牧歌的で農夫NPCが往来する広場は突如として寂れた無人のものへと移り変わった。
 十九層、未だクォーターポイントを知らなかったプレイヤー達が破竹の勢いを以て突き進み、他の層と同様に疾風の如く駆け抜けていった主街区は、まさしく風の通り道とも形容できるような人気のなさだ。街自体に面白味もなく、NPCさえ歩いていなければ必然的にプレイヤーの姿だって確認出来ない。だからこそというべきか、この層における隠しクエストは俺が発見した以外には確認されていないのである。今回はその取りこぼしを処理することとなるが、先ずはクエストの受領が先決か。寂れた街の目抜き通りから、うらぶれた横道に進み、おおよそ一般のプレイヤーならば立ち入ろうという気さえ起きないような袋小路に、例のNPCが佇んでいた。夕刻から夜間にしか出現しない時限式のNPCは、黒いフード付きのローブを纏った気味の悪い姿はどうにも奇怪な趣を漂わせている。
 通常クエストでは最初から存在するクエストアイコンはなく、一見すればクエストNPCであるとは露ほども疑うまい。こんなところまで迷い込んで、気味の悪いNPCだけでは割に合わないだろうが、むしろ俺からすれば《こんなところに意味有りげに居られる》方が怪しいくらいだ。上層にて得た情報では、何やら怪しげな儀式を決行した事が理由で身を潜めているのだとか。実に不穏なのだが、臆せず声を掛けてみた。


「なんでこんなところに座って
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