第二十二話 最初の卒業式その七
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「柔らかい心と態度でおみちを進んでね」
「わかりました。柔らかく」
「少しずつでいいから」
少しずつとも言われました。
「そうしていってね」
「ええ。それじゃあ」
「さて、と。これで荷物は整ったわね」
お話が終わったところで先輩達はあらためて御顔を見合わせられました。
「後はこれを詰所に持って行くだけね」
「ええ、そうね」
「それで。この三年間も終わりね」
三人共御言葉に凄い感慨が込められていました。
「長いようで短かったわよね」
「本当にね」
「一年の時なんかね」
佐野先輩が仰います。先輩は垂れ目ですけれどの目がさらに垂れた感じになられていました。
「何時終わるか不安で仕方なかったけれど」
「終わってみればこれがね」
「そうそう」
長池先輩の御言葉に高井先輩が頷かれています。
「早かったわね。もう一瞬」
「今度は大学生ね」
「三年間があっという間なんですか」
これは私にはわからない言葉でした。聞いても実感が沸きません。何しろこの一年本当に色々ありましたから。けれど確かにこの一年はあっという間だったような。
「ちっちもこの時になればわかるわ」
「本当にね。すぐにわかるわ」
「はあ」
「わかったら」
長池先輩が私に声をかけてくれました。
「今度は大学でね。会いましょうね」
「あっ、待って下さい」
けれど僕はここで長池先輩に声をかけました。
「何?」
「荷物、ありますよね」
私が言ったのはこのことでした。
「詰所に運ぶ荷物が」
「ええ、まあそれはね」
先輩は私の言葉に応えてくれました。
「三年間それなりに溜めたものが」
「運ばせて下さい」
そう先輩に言いました。
「私でよかったら。お手伝いさせて下さい」
「ああ、それは別にいいわよ」
けれど先輩はそれは笑って断られました。
「いいんですか?」
「だってもうすぐ詰所の人が来てくれるし」
「詰所の人がですか」
「ええ。詰所に入るから」
これは変わらないみたいです。詰所はおぢばにいるとお家みたいなものになります。私も高校に入るまではおぢばに帰るといつも奥華の詰所にいました。
「だから来てくれるのよ」
「そうなんですか」
「ちっちの気持ちだけ受け取らせてもらうわ」
「私も」
「私もよ」
先手を打たれた気分でした。実は佐野先輩のも高井先輩のもお手伝いさせて頂くつもりでしたから。何か先に言われて残念な気持ちです。
「そういうことでね。それじゃあまたね」
「はい、さよならじゃないですね」
「すぐに会えるから」
長池先輩のこの笑顔もまた見られますから。だから涙は出ませんでした。泣くような状況ではないことが私にとってはとても有り難かったです。
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