浮遊城の怪盗
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りあえずは目の前の男が本当のことを言っている、と仮定して話を進めることにした。
「それで、お宝っていうのは」
先の自己紹介で語られていたトレジャーハンターという肩書き、そして目的がお宝を集めて回っている、ということならば、この世界にも何かお宝と呼ばれるものがあるのだろう。そう結論づけたキリトを誉めるように、海東は口笛を鳴らしてその考えが正解だということを示した。
「話が早いね。ありがたいよ。じゃあ僕も簡潔に言おうか」
簡潔に言うと言いつつもコーヒーを飲んで一拍置き、海東はハッキリとキリトに《お宝》を宣言する――彼にとって、とうてい受け入れられないその提案を。
「この世界、とびきり美味しいナマコ料理とかないかな。お土産に持って帰りたいんだけど」
「は? ナマコ?」
もちろんこのALOという世界にそんなものがあるわけがなく、緊張していたキリトは申し出の落差にがっくりと肩を落とす。そんなキリトの様子を小さく笑いながらも、海東は少し気持ち悪そうな表情を作る。
「冗談さ冗談。僕だって見たくもないんだ、あんなもの」
冗談はそろそろ止めにして――という前置きとともに、海東は今度こそ本題をキリトに問いかける。
「僕が狙っているお宝は《Yui-MHCP001》。今、君が持っていると聞い――」
――海東の言葉が言い終わるより早く。キリトの拳が机に叩きつけられていた。
「……危ないじゃないか。コーヒーがこぼれるよ、覚えておきたまえ」
「ふざけるな! ユイをどうするつもりだ!」
海東が言う《Yui-MHCP001》とは、本来はメンタルケアシステムであるユイの正式名称だ。しかし、ユイはもはやただのシステムではなく、キリトとアスナの娘と呼べる存在となっていた。それを所有物として預かったことも含め、キリトは似合わず激昂して海東を問い詰めるものの、海東はあくまで飄々と受け流していた。
「だから言ったろう。お宝だから僕にくれ、と」
「答えはNOだ。ユイは物なんかじゃない」
怒りは幾分か抑えて、ただし敵意はまったく抑えることはなく。キリトは海東の一挙手一投足を油断なく構え、そんなキリトを海東は鼻で笑う。
「じゃあ仕方ない。交渉決裂だ。平和的に解決したかったんだけど……言っておくが僕は、お宝は絶対に逃さない」
「……やってみろ」
間の悪いことに、NPCレストランにいたキリトは非武装。システムメニューを操作して愛刀を取り出し、目の前の海東を切り裂くまで彼なら数秒とかからないが、数秒というのは決定的な差だった。キリトが剣をアイテムストレージから取り出し、柄に手をかけた瞬間――灰色のオーロラのようなものが海東を包み込むと、そこから海東は一瞬のうちに姿を消してしまった
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