浮遊城の怪盗
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「ここ、いいかな?」
その男は随分と奇っ怪な格好を呈していた。いや、正確に言うならば、この世界では――という枕詞がつく。キャップ付きの帽子にジャケットを羽織ったその姿は、現実で見るならばモデルでもやっていておかしくない格好だったが、このALOという世界では異質極まりない。……しかもどの種族かというそれ以前の問題として、その背中からは、この世界の人間である妖精の翼がない。
「あ、ああ……もう帰るところだから」
かなり変わったアバターだとは思ったが、変わり種のレアなアバターにはキリト自身、身をもって学んだ覚えもある。この世界の全てを知ったわけでもなし、気にはなったがキリトは家に帰ろうとした時、その男に腕を掴まれた。
「まあ待てよ。《黒の剣士》キリトくん?」
「お前……?」
その名前を知っているのは、もうあのデスゲームの関係者だけの筈なのに。ニコニコと笑うその青年の姿を改めて見てみると、腰に大口径の銃が提げられていた。またしても、このALOには似つかわしくない武器と《黒の剣士》の名前に、キリトは今度こそ立ち止まる。
「お前……何者なんだ」
「まあ座りたまえ。ゆっくり話そうじゃないか」
気づけば青年はゆったりと椅子に座り、どこから出したのかコーヒーを口にしていた。キリトも油断なく青年の対面に座ると、もう一度キツく問いただした。
「もう一度聞くけど、一体何者なんだ」
「通りすがりの……いや違うな。僕の名前は海東大樹。そうだな……トレジャーハンターとでも思ってくれたまえ」
通りすがりの――と言いかけて。青年は《海東大樹》とその名を名乗る。……もう随分と昔の話だが、名前を尋ねて本名を言われたことは二回目だ。ふざけるな、とキリトが言おうとする前に、海東と名乗った青年がまくしたてる。
「君が聞いた。なら次は僕の番だ。そうだろう?」
「…………」
ペースが掴みにくい海東に対してキリトが閉口していると、それを了承と受け取ったのか、海東はさらに言葉を続けていく。
「信じてくれなくて構わないが、僕は色んな世界を旅していてね。ゲームの中なんかじゃない、本当の平行世界をだ。その様々な世界で、お宝を集めて回ってる」
「……は?」
――平行世界を旅して回っている。そんな信じられるとか信じられないとか、そんな次元ではないことを目の前の青年は言ってのけた。確かにその言葉が真実ならば、この世界ではありえない格好に名前も成り立つが……
「だから、信じてくれなくて結構だと言っただろう。まだ君たちじゃ通りすがれもしない」
どこまでも偉そうに上から目線で言ってのける海東だったが、むしろその言葉が真実である方が、キリト自身納得が出来た。もちろん信じがたいことではあるが、と
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