第十七話 アントワッペン騒乱
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起こそうとしたが人が足りない。
ここで、ド・ブラン夫人は知り合いの平民の主婦層に片っ端から声を掛けて、人集めをしたからだ。
かくして、女性比の高いマダム・ド・ブランはントワッペンに於ける縫製事業のシェアをごっそり奪う事ができた。
特にミシン機の性能は素晴らしく、ちょっと職業訓練した程度の者が、熟練の縫製職人にしか出来ない様な早さの仕事をこなせる様になったのは革命的だった。
レースと言ったミシンでは加工できない様な物は熟練の手を借りなければならなかったが、ともかく、マダム・ド・ブランはアントワッペンで一番の縫製工場になった。
だが、困った事もあった。それでも大多数の縫製職人が職を失ってしまったのだ。
失業の恨みが従業員に向けられる事を恐れた、ド・ブラン夫人は職を失った縫製職人の何人かに声を掛け、マダム・ド・ブランに再就職するする様に進言した。
何人かの職人は再就職したが、その他の職人は受け入れなかった。
幸い、縫製職人の恨みは、この騒動を煽ったアルデベルテ商会に向けられるようになった。
これで一件落着……と、なれば大変良かったが、そうは成らなかった。
大商人アルデベルテが、十数名のヤクザ者を使って、マダム・ド・ブランの工場を襲撃してきたのだ。
そんな時、『彼』の存在がなければマダム・ド・ブランとミシン機は破壊されていただろう。
ド・ブラン夫人は、三頭身の身体を揺らしながら工場から外に出て、離れの小屋に居る、件の『彼』に朝食を渡すべく、鼻歌を歌いながら向かった。
「おはよう、聞いていると思うけど、今日、トリステインの王子様が御出でになるの」
「……ああ」
『彼』は、なにやら研究に没頭していた。
「朝食、ここに置いておくわ」
ド・ブラン夫人は朝食の乗った盆をを空いていた机に置いた。
彼こそ、ミシン機を発明し、アルデベルテ商会の襲撃を退ける武器を作り撃退の指揮を取った男、名前をラザールといった。
名前はラザールのみ姓は無い。そう、彼は平民だった。
ラザールは、科学者であり化学者、数学者で軍事にも明るい、謂わば万能の天才と呼ばれる男だった。
出身地のカルノ村から取って、『カルノ村のラザール』と、名乗っていた。
しかし、カルノ村では、変人のレッテルを貼られ、村はずれの小屋で細々と研究をしていたところをド・ブラン夫人に見出された。
ラザールはド・ブラン夫人に囲われる様になったおかげで、研究に没頭できる様になった。
一日に三回、ちゃんと食事が出るので、一種の生活破綻者であるラザールには大変助かった。
カルノ村では、今日の糧を得る為に、研究を中断して慣れない野良仕事をしなければならなかったからだ。
そういう事で、ラザールはド・ブラン夫人に感謝していた
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