暁 〜小説投稿サイト〜
魔法少女リリカルなのは 〜優しき仮面をつけし破壊者〜
StrikerS編
109話:『星々(れきし)』(前編)
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――赤き龍騎士の姿だった。


 突き出していた右手、そこに装着していた龍の頭部が消えると同時に、背後にいた赤い龍が水面に吸い込まれるように消えていった。


「何故…何故お前が…!」


 片膝をついていた男がゆっくり立ち上がると、そう言った。それは疑問をぶつけるのではなく、まるで何かにすがりつくような……
 対し問われた男は、右手を下ろし両肩を上下させながら、


「…見放されたんじゃ、なかったんだ」
「何…?」
「あの人達≠ヘ、見放したんじゃないんだよ」
「…そんな戯言、しゃべる間もなく葬ってやる…ッ!」


 男はそう言うと、新たな次元へと突入する。
 全てが停止に近い状態になる、それはまるで異世界への進入のよう。足元の波紋は波を作ったまま止まり、しかし行動と思考は止まることなくそれについて来る。

 全てが止まったような新たな世界で、男は歩き出す。急がないのは、この世界に干渉する者がいないという余裕からだろう。
 そう、鉄仮面を付けた男には、この世界に干渉する術がない。だからこそゆっくりと近づくことができるのだ。

 何もできない男は今、何を思っているのだろう。
 仮面の奥にある筈の表情は、今どのような感情を露わにしているだろう。


「悔しいな、何もできないというのは」


 今のお前には何もできない、何も守れない。だから破壊するしかないんだ。
 そう言って男は剣をなぞる。念には念を、ということだろうか。わざわざ相手の背後へと回り、剣の柄を握りしめる。

 人は首を跳ねれば死ぬ、今しようとしていることはそれだ。
 この男の感じる世界では、何が起きたのかわからないまま死んでいくことだろう。


「―――死ね」


 ただ一言、そう言うと男は剣を振るう。
 狙うは男の首元、切れればそれで終わり。


 ―――だが、その瞬間。


 男は青い双眸に映された、剣を振るう自らの姿を見た。















『おばあちゃんが言っていた…』


 振り向いた先に、その人は立っていた。青めの着流しのようなものを来た男だ。
 その男は、星の少ない空を指し、空いているもう片方の手には―――銀色のボール、そして豆腐があった。


『世界は自分を中心に回ってる、そう思った方が楽しいってな』


 お前はどうだ? 天高く上げていた指を、今度はこちらに向けて言う。
 確かにそう思えたら、楽しいだろう。だけどそれは、心が強くないといけない。

 後ろにいる人ほどの強さがなければ、世界で一番偉いと思える程の人でなければ。
 それほどの強さは、自分にはない。


『……ある男が言っていた』
「……?」

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