第173話 総攻め
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死に顔を凝視した後、彼女の目を自分の右手で瞑らせた。そして、剣で彼女の首を切り落とし彼女の首を掲げて叫んだ。
「敵将・蔡和を討ち取ったり――! 蔡徳珪軍は弱兵の集まり! 恐れるに値せず!」
正宗の雄叫びに蔡瑁軍に動揺が走っているように見えた。蔡和は蔡瑁軍の幹部である証拠だった。正宗の戦果を聞いた正宗軍の兵士達は戦意が更に昂揚し、蔡瑁軍に激しい攻撃をしかけた。既に正宗軍の後軍も城内に入り各所で戦闘に移っていた。孫堅軍と義勇軍の兵士の姿も見えていた。
「車騎将軍!」
正宗は聞き覚えのある声を耳にした。剣戟の響く中で集団が正宗に向かって近づいてくる。騎兵達は警戒し正宗を守るように展開していた。集団の中から一人前へ進み出た。
「魏文長でございます!」
その名に正宗は表情を変えた。
「味方だ。槍を納めよ」
騎兵達は正宗の一声で槍を納め道を空けた。正宗は歩兵の一人に蔡和の首を預け、前に進み出ると魏延が顔を伏せ片膝をつき拱手し待っていた。彼女の背後には十人ほどの粗末な武装をした者達がいた。魏延も彼女に従う者達も身体中に傷だらけで中には腕を失っている者もいた。その姿から彼らが死線を潜り抜けてきたことは間違いない。
魏延の配下は正宗の姿を確認すると顔を地面に擦りつける勢いで平伏した。
「ここは戦場だ。平伏せずともいい。重傷の者もいるではないか。楽にせよ」
正宗の言葉に恐縮しつつ六人が重傷の者達を介護しだした。
「魏文長、よく生きて戻った」
正宗は感極まった様子で魏延に声をかけた。
「お約束を守ることが出来ました。城攻めまでに逃げることができず、車騎将軍にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
魏延は片膝を着き正宗に拱手したまま顔を上げず答えた。彼女は正宗軍が先方として突入したのは自分のせいと思っているようだった。
「何を言っている! お前は私との約束を見事守った。誇ることはあっても恥じることなどない!」
正宗は魏延に近寄り両肩を掴んだ。
「有り難きお言葉」
魏延は身体を震わせていた。
「お前達、魏文長と共の者を簡単な治療をしてやれ。治療後は後方に下がらせろ。残りの者は私と一緒に内城に向かうぞ」
正宗は側の騎兵に命令を出すと自らの馬に近づいて行く。
「車騎将軍、お待ちください!」
正宗は魏延から呼び止められ振り向いた。
「車騎将軍、お預かりしておりました短剣をお返しいたします」
魏延は懐から剣を取り出し正宗に差し出した。正宗は剣を見てかぶりを振った。
「魏文長、それは受け取っておけ」
「このような高価な物をいただくことなどできません」
「お前は私との約束を守り死地より戻ってきた。その懐剣はその
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