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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第136話 大元帥明王呪
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かどうかも怪しい。

 それに……。
 それまで以上に瞳に力を籠める俺。そう、これから発する言葉は、俺自身にもその問題が常に付いて回る疑問。
 多分、俺の転生を制御しているのは普通の人と同じ前世の俺。前世を終え、その後に転生を行う段階で次の生命の目的を自分で選んだ結果が、今この生活に繋がっていると思う。

 しかし、それは果たして今の俺の意志だと言えるのか。

「何処かの誰かに、その感情を操られている可能性は考慮したのか?」

 はっきりと聞こえるように。聞き間違いのないように滑舌も確実に、一言、一言に力を籠めてそう言葉にする俺。
 おそらく、さつきだってこんな事ぐらい分かっているはず。但し、その事に対して敢えて目を瞑っている可能性だってある。

 蛇神召喚の祝詞がその瞬間、風音により一瞬かき消された。それは僅かな余韻を引き、俺と、俺を睨むように見つめるさつきの周囲を舞う。
 まるで、俺の発した言葉自体をズタズタに引き裂こうとするかのように……。

「だって――」

 低い、まるで肺からすべての空気を絞り出すかのような声。普段の自らの感情を押し殺したかのような……有希やタバサ、万結のように、そうある事が自然な声などではなく、彼女の場合は作られた声。その普段の作られた声ではない、悲痛と表現すべき声。

「あたしだって、そんな事ぐらい分かっているわよ!」

 だって、仕方がないじゃない! あいつの顔を見ていると、懐かしいのよ! 哀しいのよ! 悔しいのよ!

 真実の響き。しっかりと閉じられた瞳からは――
 これ以上、見てはいけない。それに見てはいられない。

「なら、あんたが証明してよ。あいつが良門じゃないって事を!」

 出来るだけ自然な雰囲気で、背中を向ける俺。その背中に投げつけられる悲痛な声。
 風に煽られ、揺れる注連縄。途切れ、途切れに成りながらも続けられる祝詞。

 後方からの寒風を受け、髪は乱れ、そのストリート系の衣装も濡れそぼっているような雰囲気。
 しかし……。
 しかし、それでも祝詞を上げ続ける犬神使いの青年。時に高く、時に低く、神道独特の抑揚を付けた節回しも堂に入ったモノ。
 ヤツの周囲に漂うのは池から発生した闇。俺の周囲に舞う流星の如き光を発する精霊の類などではなく、生命を感じさせる事のない虚無そのもの。

 ヤツは今、さつきが俺に囚われている事には気付いているはず。少なくともシャーマン系の能力者のようなトランス状態となって、現状認識力が異常に低下しているようには見えない。
 これは自らの姉であろうとも足止め要員として投入し、例え、その所為で失ったとしても眉ひとつ動かす事のない覚悟を決めた狂信者か、
 それとも、初めからさつきとの繋がりが皆無の、単に彼女の精神を操
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