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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第136話 大元帥明王呪
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る事もなく。
 これは術。重要なのは現実に叩きつけるパワーなどではなく、イメージ。
 普段は刀や剣、もしくは槍を介して発動させる龍気を、今回は自らの手の平に集中。踏み込んだ左脚の下で砂利が一瞬の内に砕け、五センチほど大地が沈む。

 彼女に纏わせた黒のコートに触れるか、触れないかのギリギリの寸止め。しかし、龍気に関しては別。
 その瞬間!

 世界を蒼白く染め上げる程の龍気が爆発。それは正に神の領域の術。
 今の俺自身で制御可能な最大限の龍気が、一気にさつきの身体を突きぬけ――

 一瞬、それまで表情を変える事のなかったさつきの表情が苦痛に歪む。いや、この瞬間のさつきの瞳に、今日、この地に訪れて彼女に再会してから初めて、表情らしき物が浮かんだ。
 怨嗟と怒りに震える瞳。しかし、その一方で感じる恐怖と……そして驚き。
 長い黒髪を振り乱し――

 一年で一番太陽の力が弱まるその時間帯に発生した、地上に墜ちた太陽。闇夜を眩く照らしながら、さつきを貫く龍気。その龍気が風に囚われし少女を貫いた瞬間、彼女の後方に弾き出される黒い何か()
 しかし、膨大な光輝(龍気)に包まれた闇が生存出来るのはほんの一瞬。まるで熱湯に放り込まれた角砂糖の如きあっけなさで、妄執と怨嗟により作り出された悪しきモノは消え去って仕舞う。

 そして、後に残るのは……。

 風の封印に囚われ、両手首と両の足首に光の環による拘束も変わらず。更に、しっかりと閉じられた瞳の色も未だ分からない。
 しかし、一般人からも分かるほどに禍々しい気配を放って居た闇は払拭され、ずっと呟かれ続けて来た呪も止み――

 ただ薄い呼吸のみが続けられている状態となった少女が、其処に存在するだけであった。

 もう大丈夫。そう考えながらも未だ風の封印を解きもしなければ、光の環による封じもそのままの状態を維持する俺。
 その俺にゆっくりと近付いて来る弓月さん。彼女が動く度に発生する小さな鈴の音が耳に心地よい。
 彼女に疲労の色はなし。足元もしっかりしており、この後の犬神使い封印の際にも、予定通りに彼女の援護は期待出来ると思う。
 俺の視線が彼女に向かった事に気付いたのか、西宮に居た時とは違う、かなり華やかな。しかし、それでも完全な笑みには少し欠ける笑みで応えてくれる弓月さん。

 少しの落胆。但し、彼女の中の俺と、俺の中の彼女に微妙な齟齬が有る以上、これは仕方がない事。おそらく、彼女の本当の笑みを見る事が出来るのは、彼女に完全に認められた人間だけ。
 多分、それも此の世に一人だけ、……となる相手なのでしょう。
 確かに見たいか、見たくないか、と聞かれると見たい、と答えるのでしょうが、今の俺では……タバサや有希、それドコロかハルヒでさえ、俺に其処までの笑顔を
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