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彼女は、蜜柑と伊予柑の区別がつかない。
彼女は、蜜柑と伊予柑の区別がつかない
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すぎて引く。私は別に、メタルスライムの節を取らなくても食べれるくらいには、図太い。
「未知花さん、未知花さん。それあとどのくらいかかります。」
「んー。待ってなくていいよー。大体一時間くらいかかるし。」
長いよ。相手が未知花さんでも引くわ。
流石に待つわけにもいかないので、節だらけの蜜柑を一房ちぎり、口に入れる。
……うん。おいしい。普通だ。何も変わらない。
期待していたほどの、感動的な何かが、この蜜柑の味に込められていたわけではないようだった。あの《黄昏を集める》行為も、影響していないのかもしれなかった。
「どう? 美味しい?」
未知花さんが節を取りながら、でもこちらに目を向けながら聞く。
「うん。普通に美味しい」
えー、普通って褒めてるの、と未知花さんが不満げな声を上げる。
「じゃあ、こっち食べてみて。」
そう言って、未知花さんは自分の蜜柑を一房くれた。
「きっとこっちは、黄昏を噛み締めた味がすると思うよ。」
自信満々な彼女に頷き、蜜柑を受け取り口に入れた。
普通だった。何の違和感もない。
一瞬、彼女に申し訳ないような気がして、いつもより甘く感じるとかそんなことを言おうかと思った。
でも、と思う。
でも、そういうものなのかもしれない、こういうものは。黄昏を噛み締めるというのは、そんなに、特別なことではないのかもしれない。
口の中の甘酸っぱい果肉を嚥下し、節を取って手元に集中している彼女に、声を掛けた。
「おいしいね。黄昏。」
その言葉に彼女は、本当に心の底から浮かべたような笑顔で、可憐な笑い声を上げた。私も楽しくなって、いつもより、一オクターブぐらい高い声で、釣られるように笑い声を上げた。

私が未知花さんのお見舞いとして、五つ入りで買ってきた蜜柑は、なぜか私が四個食べた。晩御飯が近いし食欲があまりない、というのが理由だった。
蜜柑を食べ終えると、時計の針が夜を告げていた。
「ごちそうさま。それじゃ私そろそろ帰る。」
「あ、うん。いつも、わざわざお見舞い来てくれてありがとうね。」
「そんなに、寂しそうな顔しないでよ。また来週末に来るから。今度は……そうだ、なにか退屈しないような小説持ってくるよ。いつも『智恵子妙』だけじゃあ、飽きちゃった時、大変でしょ。」
「うーん。申し出はありがたいのだけれども……。フミちゃんが持ってくるお話って、どうも忙しいというか……。私の肌に合わないのよね。」
「辛辣だなあ……。」
彼女の言葉に戦慄するほど、心の中で同意する。それはそうだろう。本当にそうだろう。
「でも、ありがとう。そこまで気遣ってくれるなんて、本当にあなたと友達でよかったわ。」
「……うん。じゃあね未知花さん。また今度。」
未知花さんに手を振り、手を振り返してくれた彼女の姿を確認して、病室から出る
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