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彼女は、蜜柑と伊予柑の区別がつかない。
彼女は、蜜柑と伊予柑の区別がつかない
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似をして、右目の視界を橙色で埋めてみる。蜜柑を顔の近くに寄せると、爽やかな柑橘の香りが鼻をくすぐった。
「ねえ。この蜜柑を目に当てるのって、何の意味があってやってるの。」
「えっと、蜜柑に黄昏を集めるため。」
照れくさそうに未知花が言う。なるほど。
「じゃあさ、ここ折角、四階だし窓辺だしカーテン開けない? きっと、今なら西日がちょうどいい感じじゃないかな。」
「あ、うん。」
私は自分の蜜柑と彼女の蜜柑に《黄昏を集めるため》に、カーテンを勢い良くスライドさせた。
すると、屈託のない健康な光が、淡い世界を切り裂くように病室に降り注いだ。すぐに左の視界も橙色で染められる。予測していない刺激に目が痛くなった私は、慌てて彼女の方を振り向いた。
彼女‐井上未知花‐は、蜜柑を持ったまま静かに固まっていた。
蜜柑と同じ色の橙に全身を浸して、彼女はとろりとした陶然とした表情で、落日の煌きを見ていた。蜜柑で隠されていない方の、瞳のハイライトが素敵だった。
彼女の吹雪のような白い顔に、蜜柑の琥珀のような橙と、日光の紅葉のような橙が混ざり合っていた。その夢見る少女のような表情を見た時、彼女が私と同い年だったということを、改めて実感した。
私も蜜柑を今度は手のひら全体で持ち、また日の差す方へと体を向けた。
「うん…。もういいよ。もう十分。」
満足げに彼女はそう告げ、右手の蜜柑をぽーんと放り上げた。手から放たれた、浮遊した蜜柑は重力に従い、彼女の膝元のあたりに、ぼどっと苦しそうな音と共に落ちた。私も蜜柑を目から離し、鋭すぎる陽光を遮るために、カーテンを閉めた。
「これできっと、この蜜柑は黄昏の味になったと思われます。」
未知花の頬に笑窪が浮かんでいた。
「そうかな……。そうかもしれないね。」
私が、なんとも言えない微妙な返事をしたのを見て、未知花はまた恥ずかしそうな表情を浮かべていたけれど、そうじゃない。私は未知花に見とれていただけだ。いや、そっちのほうが恥ずかしいかも、と薄ぼんやりとした頭で思った。
「蜜柑……。食べよっか。」
どちらからともなく言うと、私たちは、小学生の女の子のように、顔を見合わせはにかみながら、皮を剥き始めた。未知花は確か、花びらのように正攻法で蜜柑の皮を広げる。普段はなかなか、芸術的な蜜柑の皮剥きを披露している私も、この雰囲気では流石に遠慮した。未知花の手元を見ると、花びらは大きめなタイプみたいだ。私もそれに習おうと、蜜柑のお尻に親指を刺した。先ほど袋から取り出した時、ひんやりと冷たかった蜜柑は、《黄昏集め》で少しだけ温くなっていた。
剥き終えた。花びらのようにはならなかったけど。なんかメタルスライムみたいな形状になったけど。気にしない。
未知花は、見事な花びらの中の、蜜柑の節を取っていた。相手が未知花さんでなければ丁寧
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