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折角の冷奴が
2部分:第二章

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第二章

 泉は鍋を出してきた。夏に鍋だった。豆腐を持って来た人はこれに意外な顔になった。夏に鍋、どうしても頭の中でその二つが一つにならなかった。だがその人が怪訝に思っているその間にだ。泉はだ。今度は昆布を出してきたのであった。
 そして昆布でだしを取って豆腐をたきはじめた。程なくして湯豆腐ができた。鍋からぐつぐつという音が聞こえてきて白い湯気まで見える。冬に見れば実にいい光景だが今は夏だ。季節外れにも程があった。その人はそれを見て思わず言ってしまった。
「夏に湯豆腐ですか」
「ええ。それが何か?」
「夏にそれはないのでは?」
「いえ、やっぱり殺菌しないといけませんから」
 だからだとだ。泉は笑顔で言うのだった。かくしてだ。
 泉は平然としてその湯豆腐を食べだ。こう彼に礼を述べた。
「いや、見事なお豆腐ですな」
「はあ。そうですか」
「持って来て有り難うございます。では貴方も」
「それでは」
 こうしてだ。彼は夏にだ。冷奴ではなく湯豆腐で食べるのだった。持って来たその人も付き合わされることになり暑い思いをした。
 泉鏡花はチフスにかかった後だ。極端な最近恐怖症になりだ。夏でも豆腐を湯豆腐で食べたという。その他にも旅先で常にアルコールランプを持ち歩いていてそれで真水を消毒もしていた。変わっていると言えば変わっている。少なくとも豆腐を持って来たこの人はだ。夏に湯豆腐を食べる羽目になってだ。随分と暑い思いをしてしまった。その後あせもに随分と悩まされてしまったともいう。


折角の冷奴が   完


                2011・3・25

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