第3章 黄昏のノクターン 2022/12
37話 夕暮れの水面
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場を失う羽目となっていたことだろう。だからこそ、ここに誠意を示すべく、その活躍に報いることとしよう」
相も変わらず側近の二人に声を掛け、恐らくはアイテムの宝庫となっているであろう奥の部屋から革張りのスーツケースを運ばせた。それは、古びた色合いでありながらも逸品の風格を思わせた。隠しクエストや隠しダンジョンで養った鑑識眼が嘘を吐いていないならば、それにはかなりの名品が納められていると訴えてやまない。思わず釘付けになった俺の視線を知ってか、コルネリオは苦笑しつつ、されど申し訳なさそうに言葉を繋げる。
「……生憎とこの一式しか渡すことが出来ないのだが、かつて上層より訪れた名のある仕立師が遺した逸品だそうだ。受け取って戴ければ幸いだ」
「そんな高級品、いいのか?」
「我々には過ぎた代物ということだ。それに、少しだけ素性調査をさせてもらったところによれば、君達は遥か上層を目指す旅人だと聞いているからね。何かの助けになるのではないだろうかと思ったのだよ」
確かに優秀な装備は大歓迎だ。戦力の増強に繋がるのであれば拒む道理こそないのだが、問題はその数量であろうか。
これだけの人数でクリアしたクエストでありながら、コルネリオの発言からして得られる報酬は一人分だけというアンフェアな状態だ。一般のMMOであればPTチャット内で紛争が勃発しかねないシチュエーションであるが、この女性陣はそんな事では頓着しないだろう。しかし、彼女達だって報酬アイテムを入手する権利は十分に有している。このままそそくさと受け取って自分のストレージに納めるには、罪悪感が重過ぎた。
「燐ちゃん、貰わないの?」
「そうですよ、頂かなくて良いんですか?」
「いや、アレだ。クーネ達だっているからな……話し合いくらいはしても良いんじゃないか?」
差し出されるスーツケースの取っ手に宿る魔力に抗いつつ、それを受け取らない俺に疑問符を浮かべるヒヨリとティルネルに返答しながら、それとなく取得者を選定するように場を促す。
「私は軽金属装備だから、布系装備はビルドが逸れちゃうかも知れないわね……ごめんなさい」
「うーん、マフィアのオジサンのチョイスだとフォーマルなイメージ? ボクはパスかなー」
「アタイは自分で作れるから必要ないよ。そもそも高級品ってのはどうにも肌に合わないのさ」
「………あの、私……壁なんで………その、えっと………ごめんなさい!」
しかし、譲り合いとしても惨憺たる酷評が飛び交い、コルネリオの表情に暗い影が落ちた気がした。
相当なレアアイテムにも係わらず、この不人気については彼女達なりの理由があってのことなので責められないが、しかして厚意を無下にされる光景を目の当たりにされては、とても居た堪れなく思えて
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