一章
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シルクとかいうクソガキは、約束どおり逃げることもその素振りもなく、おとなしくしていた。
「世話んなったな」
「ゼロさーーん!またきてくださいねーー!!」
盗賊の根城を出発したときも、道中しばらくの間も、異常なほどにおとなしい。だまって、俺の後ろをとぼとぼと歩く。
周りはうっそうとした木の集まり。苔の臭いと湿っぽさが煩くなってきた。
「……そろそろ頃合いだな」
「へ?」
放った小刀はぶれることなく真っ直ぐとクソガキの首の横へ突き刺さり、ざわりと森は騒いだ。反するようにガキは硬直したまま動かない
「あの技はなにか。雫神とか指命とか言ってたがそれはなにか。答えろ。約束は守ってもらう」
こいつの言葉に嘘はない。指命があること、自分が雫神の者であること。声、表情からも嘘ではないことはわかるが、矛盾が発生する。
なぜ雫神がここにいる?
「ぼ……ぼくは……教えることができない」
「あまりなめたこというなよ?今日はあの吸血鬼はいない。何のために日の出てる時間を選んだと思ってる」
雫神とは、神樹マーテルに住む神の一族。崇め奉られる存在であって、盗賊に捕まるど阿呆ではない。こんな山の中で大犯罪者と話すこともない
で、とくになにもすることもない神の一族が、指命をもつこともない。こんなガキならなおさらだ
「ぼくを……手伝ってくれるなら教える」
「俺に意見できる立場だと思ってんのか?」
実際のところ、あの技に興味はあるが別に必要なことではない。別に大して効かなかったし、俺自身にあれ以上の力がある。なんの脅威にもならない。
だが、俺には経験があった
無知が時にとんでもない凶器になることを
この力にしろ、こいつの存在にしろ、わからないものをわからないままにするのは得策じゃない
ま、8割は只の興味なんだろうが
「…………わかった。わかったから、ひとつだけお願いしてもいい?」
「あ??」
まだいうか、このクソガキ!
「おなかすいた!」
…………クソガキ
「んまい!ふつーにおいひい!!」
「そりゃよかったな」
小さな町の小さな食堂。人が大勢集まる賑やかな場所に俺とガキはいた。日は高く、室内でフードをかぶっても最悪な気分は変わらない。人の多さが幸いして、俺がゼロだとは誰にもわからないようだった
「…………で。いつになれば本題にはいる?」
「んんんん。わかっぱよ。……ごぐん。えっと、まずはあの力だけど、そんなすごいものじゃないよ。勉強したら誰でもできるし、ティナもちなら尚更簡単。というか、みんなできるもんだと思ってた」
「仕組みは?摂理は?」
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