アインクラッド 後編
心の温度差
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るようにキリトが伏し目がちに言った。
「マサキの言ったとおり、リズとダンジョンに行ってた。二人だけで、パーティー組んで。……珍しいだろ?」
キリトはおどけたように笑ってみせる。斜めに歪んだ口角には、自責と自嘲がない交ぜになって滲んでいた。
よもやそんな言葉を向けられると思っていなかったマサキは、口を僅かに開けたまま数秒硬直し、「まあな」という同意の声を吐き出した息に混じらせる。
「最初はそんなつもりなかったんだけどさ。気づいたら、売り言葉に買い言葉って感じでパーティー組んでた。そしたら、ダンジョンでトラップに引っかかって、二人とも死に掛けで一晩足止め喰らってたんだ」
その時の状況を思い出すようにどこか遠くを見ながら話すキリトを見て、マサキは何となく彼の言わんとしていることを察した。キリトの視線が指なしの黒革手袋に包まれた彼の左手に注がれ、次いでマサキを見据え。その瞳に優しげな光が満ちた。
「その夜、リズの手を握って……すごく温かかった。この人は生きてるんだって、いつか死ぬためじゃない、生きるために生きてるんだって思えた。……俺も、マサキもだぜ」
「……そうか」
――相変わらずな奴め。
マサキは心中で苦笑を漏らしながら、ほんの僅かだけ切れ長の瞳を細めた。
命というものに誰より敏感なのが、このキリトという人物だ。あるフィールドボス討伐の作戦会議で、NPCを囮に使う作戦に対し「NPCだって生きている」と強硬に反対したのは記憶に新しい。そんな奴だからこそ、今のように、あるいは五十層の時のように、暗闇を抱えてなお他人を気遣えるのだろう。
「その言葉は、リズに言ってやれ」
「ああ。……じゃ、俺行くよ。サンキューな」
キリトは線の細い顔に笑みを浮かべると、猛然と加速してリズベットの後を追って行った。漆黒のロングコートを激しくはためかせた彼の背中がみるみるうちに縮小されていく。
「あ、マサキ君! 来てくれたんだ!」
何故自分の周囲には、余計な世話を焼きたがる人間がこんなにも多いのだろう。
まるで図ったかのようなタイミングで背後から聞こえてきたソプラノに、マサキは嘆息を隠すことができなかった。
リズベットはその後十分ほどでキリトと共に店へ戻ってきた。店で待っていたアスナと交わした笑顔からは少々無理をしているような印象を受けたものの、先ほどどこかへ駆けて行った時に垣間見せた悲痛さは幾分薄らいでいるようだった。
何はともあれ、これで役目は終わった。そう考えたマサキは、談笑にふける四人を尻目に早々と退散しようとした。
……のだが。
「何故俺まで……」
「まあまあ、せっかくここまで来たんだし、インゴット一緒に取りに行ったんだもん。剣ができるまで、もうちょっとだけ付
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