第十九話 歪みの吐露
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いよね、ほんとやめてね!?俺死んじゃうから!」
「ねえ聞いてる!?」と大声で騒ぐリュウヤを無視して、アスナはツカツカと階段を登りながら祭壇へと向かった。
その間、アスナはひたすら自分に言い聞かせていた。
疑問を挟むな。
思考を停止させろ。
指示されたことに従え。
今はただこの場から離れることが最優先であって、自分の余計な感情に取り合っているひまなどないのだから。
リュウヤの思考や行動の意味を考えるより先にやるべきことがあるだろうと、アスナは強く言い聞かせる。
しかしそれでも唯一見過ごせなかったのは、このクエストのクリア条件だ。
リュウヤの発言から察するに、先ほどのモンスターを倒すことがこのクエストの達成条件らしいが、クエストがクリアされたことを知らせるウインドウは開かれていない。
パーティーを組んでいるからには自分には知らされないことはないし、見落とすなんて以ての外だ。
ならばリュウヤが気にしていたNPCを連れて帰るのが条件なのだろうか。けど、彼は「一応二の次」という趣旨の発言をしているしーーー
と結局は思考を停止させることができずにいると、気づけばすでに階段を登りきっていた。
とりあえず寝かされているNPCを連れて行こうと祭壇へと一歩踏み出した。
下からでは見えなかったNPCの容姿は、見るからに少女といったものだ。背も小さく幼い印象を抱かせる。
見た目的には7、8歳と思われるその小柄な少女には、巫女装束のような服が着せられており、その周囲には儀式用の供物が置かれていた。
その様子を見て、アスナは相手がNPCだということを一瞬忘れかけてしまうほどに動揺した。
フィクションや神話、実際の史実でもそうだが、人身が生贄に出される時というのは、大抵幼児や少年少女、生娘といったものに絞られる。
その格好もまた、神聖なものとして白を基調とした服装で整えられることが多い。
そのセオリーを実体化させた目の前のNPCにーーー少女に、思わずアスナは口元を覆った。
まさに人身御供を想像させるこの舞台に、アスナは怒りすら感じたのだ。
なぜこんな幼い子をと。
この子はどんな思いでここにいるのかと。
見ると聞くでは全く違う。これはただの仮想物体に過ぎないと理解していても、本能がアスナの感情を刺激する。
一瞬よろめきかけた足をなんとか踏ん張ると、驚くことに、NPCの少女のまぶたがうっすらと持ち上がった。
急いで少女に駆け寄ると、その少女は虚ろな瞳をアスナへと向け、小さなくちびるを懸命に動かした。
「お………ねえ、ちゃん……、オオカミ………さん、は………?」
おそらく祭壇の前にいた《ザ・ベナンダンテ》のことだろう。アスナはそう考え笑顔で答えた。
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