第十七話 ぐだぐた逃走劇
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ザッ、ザザッ、ザッ、ザザッザッ。
不規則に聞こえてくる足音は、一人の笑い声で掻き消されそうになっていた。
「くくっ……アッハッハッハッ!かぁ〜、面白かったなぁ!あの拍子抜けた顔!だっはっはっ!」
それはもう愉快そうに、腹を抱えてまで笑い、楽しそうなのを隠そうともしなかった。
リュウヤのその顔に、ついさっきまであった表情などどこにもない。
その明るさは暗い夜の不気味な森とは真逆。明るすぎてそこだけが昼のように思えるほどだ。
「はっはっはっ!ーーーえほっ、ゲホゲホッ!」
森全体に響き渡りそうな大声で笑うリュウヤ。
ついには笑いすぎてむせ返っているところを、隣の少女がむくれながら背中をさすった。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない……」
顔を赤くして羞恥に頬を染めるアスナの言葉に張りは感じられなかった。
以前ならレイピアを突き立てていたところだが、今回はそんな気は起こらなかった。
それは未だ先ほどの出来事から復帰できていない証拠でもある。
しかし、そう簡単に忘れられるハズもない。
一時本当に死を感じたのだから。
「…………え?」
リュウヤの武器がポリゴンの身体を貫く音がアスナの耳に聞こえた。
音の発生源は、なんとアスナの真後ろ。大熊が後ろから襲いかかろうとしていたのだ。
それをリュウヤは投擲一つで難なく撃破。断末魔を奏でながらポリゴンのカケラと化したモンスターはその場から消え去った。
リュウヤは落ちた武器を手に取り、くるんと回転させると同時にアイテムストレージにしまった。
「ここは隠蔽スキルの高いモンスターばっかだから気をつけろよ。どうせ索敵スキル持ってねえんだろ」
確かに真後ろにまで接近されていて気づかないのだからそう思われてもムリはない。それに索敵スキルを持っていないのも確かだ。
だがそんなことに気が回るほど今のアスナは冷静ではなかった。
(殺されるところだった……)
あの熊にではない。目の前に立っているリュウヤにだ。
実際はそうではなかったのだが、あの眼、彼の気迫がこもった目が如実に語っていた。
お前を殺す、と。
今までに何度か経験したことのある気配。
ほぼすべてのモンスターから感じる恐怖。
オレンジプレイヤーの罠にかかった時の感覚。
あれはまさしく『殺気』だった。
もしアレが自分に向けられていたら。
もし対象がモンスターでなく人に向けられたら。
考えるだけで背中に悪寒が走った。
前にも思ったことがある考えが脳裏に浮かぶ。
この人は、絶対に敵に回してはいけないーーー
そんなことを考えていた時の、アスナの呆けたような顔を見たリュウヤ
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