ターン42 鉄砲水と魔性の甘味
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これとこれ」
肩をすくめてそう言いつつ、2つの包みを取り出して僕に差し出す葵ちゃん。む、なんかデジャヴを感じる気がする。
「葵ちゃん、もしかしてこれって」
「義理チョコですが?いらないなら返して下さい、持って帰って私が食べます」
「有難くいただきます、恐悦至極感謝の極みです」
「……テンション高いですね。引きますよ?」
割と本気で引き気味の葵ちゃんを見て少しだけ我に返り、咳払いをしてどうにか誤魔化す。と同時に、そこでようやく目の前の彼女の何とも言えない表情に気が付いた。
「そういう葵ちゃんはテンション低いね。嫌なことでもあったの?」
「嫌なこと、と言うほどでもないんですけどね。先輩、これは私からのですが、こっちの箱は誰からのものだと思いますか?」
そう言って、2つ目の包みを指さす葵ちゃん。彼女がここまで複雑な顔になる相手……あ、なんかもう先が読めた気がする。
「今朝起きたら、私の部屋の机の上に手紙と一緒にこれが置いてありまして。明菜お姉ちゃんからのプレゼントだから、清明……あー、その、清明きゅんに渡してね、だそうです。末尾にハートマークもついてました」
思いっきり言いたくなさそうにしながら『清明きゅん』とか言ってる葵ちゃんをじっと見てるとなんだか新しい何かに目覚めそうな気もしてくるけど、それはそうとして貰えるものは素直に嬉しい。でもあの人、ついこの間この島に来たばかりなのにまた来てたんだ。しかもまた葵ちゃんの勘と女子寮の防犯装置に引っかからずの不法侵入までやってのけて、あの人には到底かなう気がしない。
「では、私はもう帰りますね。なんかもう……今日は姉上のせいで精神的にどっと疲れました……」
「はーい。お返しは期待していいよ」
冗談めかしてそう伝えると、今まさに出て行こうとした葵ちゃんが振り返る。
「ええ。わたしは甘味に関しては、先輩のことを全面的に信頼していますから」
いたずらっぽくそう返す葵ちゃんは、今日初めての笑顔を浮かべていた。それでは、と最後に一礼して去っていくその後ろ姿を眺めつつ、改めて片付けの続きに取り掛かる。いやー、嬉しいな。まさか1日に3つもチョコが貰えるだなんて、ここに入学する前にはそんなバラ色人生想像もしていなかった。
『ずいぶん浮かれてるな、マスター』
「そりゃ、ナスカ出身のチャクチャルさんにはよくわかんないだろうねー。バレンタインにチョコ貰って喜ぶのは、日本男児の特徴さ。フンフ〜ン」
ただ、1つだけ疑念がないわけじゃあない。いや、こんなこと考えるのは贅沢の極みだって自分でもわかっちゃあいるんだけどね?ただ、誰とは言わないけど去年のこの日に僕にチョコをくれた人から、今年は何かしらないのかなーって、ね?やっぱりそこが正直1番気になると
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