巻ノ三十 昌幸の智略その三
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「だがわしはな」
「四郎様をお護り出来た」
「その自信がおありでしたか」
「必ずな。わしは四郎様が好きだった」
最後は多くの家臣達に見捨てられ死んでいった彼をというのだ。
「忠義を尽くしたかった、よりな」
「四郎様は我が家を大事にしてくれました」
「信濃の者達を」
「我等にしてもです」
「四郎様が主でした」
信之も幸村も言う、真田家をはじめとして信濃の者達は甲斐の者が主流の武田家から見れば外様だったのだ。
しかしだ、諏訪家の血を引きその家を継いだ勝頼は信濃に長くいて縁も深くだ。信濃の者達を大事にしたのだ。
それでだ、二人も言うのだ。
「それ故です」
「我等も四郎様ならと思ったのですが」
「それが、です」
「天目山において」
「武田家の譜代の臣であったが」
昌幸は無念の顔でだ、さらに言った。
「あの者達はな」
「はい、穴山殿も小山田殿も」
「全く以て不忠でした」
「四郎様を裏切り」
「そのうえで追い詰められました」
「わしは見えておった」
昌幸はこうも言った。
「あの者達の心がな」
「そして四郎様にも申し上げられていましたな」
「高坂殿と共に」
高坂昌信だ、信玄に取り立てられ勝頼をあくまで盛り立てた者だ。
「しかしです」
「四郎様は武田家の主であられました」
「譜代の家臣を信じるしかなく」
「あの様にして」
「武田家の主は譜代の家臣達の中心にあった」
甲斐源氏の嫡流であり代々守護を務めた名門だ、それ故に譜代の家臣達も古い家が多く彼等の言葉を聞かずどう思っても受けるしかなかったのだ。
それでだ、勝頼もだったのだ。
「織田家の様にはいかぬからな」
「普代の臣の言葉ならば」
「聞かなくてはならない」
「だからこそ四郎様は小山田殿の言葉を聞かれ」
「あの様に」
「無理をしてもお連れするべきだった」
昌幸は後悔の念も述べた。
「そうすれば今もな」
「武田家は残っていましたな」
「おそらく」
「本能寺のことは思っていなかった」
起こるとはだ、昌幸にしても。
「しかしあそこでな」
「四郎様が生きておられれば」
「甲斐に戻って頂くことが出来ました」
「そして我等が盛り立て」
「武田家は復権していましたが」
「そう思うと無念じゃ」
まことに、というのだ。
「全く以てな、しかしな」
「はい、それも終わったこと」
「だからですな」
「ここは我が家を守る」
「それに専念すべきですな」
「そうじゃ、徳川家の兵は退ける」
必ず、というのだ。
「全ての手は用意した、ならばな」
「はい、これよりです」
「戦ですな」
「そうじゃ、勝つぞ」
昌幸は息子達に確かな声で告げた、この後で重臣達も集めてだった。家臣達に対しても告げたのだった
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