3部分:第三章
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第三章
その姿でだ。二人に言ってきたのである。
「私お料理好きなんです」
「ううむ、そうなのですか」
「お好きなんですね」
「はい」
温和な、女性のそれを思わせる笑顔で答える後藤だった。
「趣味なんです」
「彼の料理は絶品です」
阿部は夫婦と同じくテーブルに座っている。そのうえでパートナーのことを話すのだった。
「私も。その料理を食べてです」
「それを食べて」
「どうなったのですか?」
「同棲を決意しました」
そうだというのである。
「それでなのです」
「同棲をですか」
「それでなのですか」
「心はもう知っていました」
それは既にだというのだ。
「ですが。同棲まではです」
「決意できなかったのですか」
「そうだったのですか」
「はい、実は私は味には五月蝿い方でして」
阿部は微笑んでこう述べた。
「それでなのです」
「料理の味は大事ですね」
「私もそれはよくわかります」
特に聡美はだ。主婦だけあってよくわかることだった。
「ですから」
「左様ですか」
「それでなのですか」
「はい、それでなのです」
また言う聡美だった。
「それでこのお料理は」
「まずは食べて下さい」
後藤はシチューも持って来た。見事なホワイトシチューだ。鶏肉に人参に玉葱、それとジャガイモがその白の中にある。
「それで味を」
「はい、それでは」
「頂きます」
二人は食べる挨拶をしてからだ。その料理を食べた。するとだ。
その味は。阿部が言う通りだった。
「これは」
「いいですね」
「はい、本当に見事です」
その阿部が言ってきた。
「彼の料理には心がこもっています」
「料理は心ですから」
後藤はにこりと笑って夫婦に述べた。
「ですから」
「成程、心なのですね」
「それもこの料理に」
「私はまずこう思うのです」
やはりだった。後藤のその笑顔は女性のものだった。顔そのものは男のものである。だが彼女は女性の笑顔で言うのであった。
「ただ作るだけでは駄目なのです」
「はい、そうですよね」
聡美が彼のその言葉に応えた。
「ただ。美味しいだけでは」
「愛しい人に笑顔でいてもらいたい」
熱い目でだ。阿部を見ていた。
「そう思って作らないと駄目なのです」
「お店でもそうですね」
「お客様に笑顔でいてもらいたいです」
店ではそうだというのである。その喫茶店ではだ。
「そう思っていつも作って淹れています」
「そうなのですか」
孝太郎はそれを聞いて納得した顔で頷いた。
「それが後藤さんのお考えですね」
「はい、特に」
阿部を見続けている。それでまた言うのであった。
「私は。この人に」
「その心です」
阿部も満面の、それでいて気品のある
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