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十円ハゲ
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第一章

                        十円ハゲ
 昭和のまだ三十代の頃の話だ。大江浩輔は頭に十円ハゲがある。それが何時できたのかは自分でもわからない。しかしそれがあってだ。
 周りからはだ。いつもこんなことを言われていた。
「よお、ハゲ」
「今日も十円最初から持ってるな」
 笑いながら言われるのだった。しかも丸坊主なのでそれで余計に目立つ。小学生の彼にとってはだ。この十円ハゲは忌々しいものだった。
 それでだ。彼はだ。この十円ハゲがだ。一日も早くなくなってしまうことを心から望んでいた。そうして日々神社にお参りしてだ。その十円ハゲがなくなることを願っていた。彼にとっては実に切実な願いだった。
 必死な願いは適えられる。八百万の神は心優しい。
 それでだ。彼のその十円ハゲはだ。
 少しずつだが狭まってきていた。さながら飴玉が溶けていくようにだ。狭まってきていたのである。それで中学三年になった頃にはだった。
「随分と目立たなくなってきたな」
「そうだよな」
 周りが見てもだった。その十円ハゲはだ。
 五円玉から一円玉になってだ。さらに小さくなっていった。最早それは十円ハゲではなかった。消えていく泡の様なものになっていた。
 彼はそのことに心から喜んでいた。そうしてだ。

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