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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 7
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 じゃない!

「せいぜい頑張ってみれば? 私は絶対頷かないつもりでいるけどね!!」

 ふんっ! と横向く私の耳を打つのは、ムカつく小鳥の笑い声。
 それと

「……はい」

 いつもより一段低く落ち着いた、カールの真剣な声。
 思わず え? と振り向いた先で。
 至近距離のハチミツ玉に映る自分と目が合った。

「貴女と長く共に在る為に頑張らせてください。私も、絶対に退きません」

 口調とは裏腹に真っ赤な顔を寄せ、私の額と自身の額を軽くぶつける。
 それから、にこっと可愛らしく笑った。

「大好きです。グリディナさん」
「……あんた、ある意味、アオイデーよりもよっぽど鳥っぽいわね。初めて必要としてくれたから好きになったとか。まるで、孵りたてのヒナが親鳥を認識してるみたいだわ」
「ヒナは親に求婚しませんよ?」
「そういう違いは理解してるってワケ?」
「もちろんです。万が一、グリディナさんが親だったら、私は……悲嘆して獣のエサになるか、人間世界で罪人として裁かれていたかも知れません」
「は?」
「いえ、なんでもないです」

 一歩下がったカールの両手が、私の両手をやんわり包んで。
 今度は、カールの口元まで持ち上げた。
 私の手とカールの手の隙間に呼気が忍び込んで、熱い。

「貴女と居たいから、必ず貴女を説得します」

 淀みも揺るぎもない金色に透き通った眼差しが、私をヒタリと見据える。

「……ふぅん?」

 これは、カールの挑戦だ。
 死んでも良いと現実逃避していた不器用な男が。
 多分本当に、今初めて、他人に挑もうとしてる。

 面白い。
 面白いわよ、カール。
 これを乗り越えたあんたの歌は、さぞかし耳に心地好いでしょうね。
 でも!

「望むところだわ。私も負けてやらない。あんたは死ぬまで、私の為だけの歌い手でいれば良いのよ!」

 私が見つけた、どんな雑音も軽減させる便利な人間。
 他のどんなやつにも、少しだって譲らない!



 そうして、互いに笑顔のまま睨み合う私達は。

『まったく同じことを言いながら、何の勝負をしてるんだ? お前達は』

 呆れたアオイデーの言葉など、まるっきり、一音も聴いてなかった。




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