2部分:第二章
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第二章
「そのうえで金を全部持って姿を消す」
「それを五軒もですか」
「つくづくとんでもない奴ですね」
「しかし料亭だ」
署長はこのことを重点的に言った。
「いいな、料亭を虱潰しに探せ」
「新入りが来た店ですね」
「それを」
「そうだ、わかったな」
「はい、わかりました」
「ではすぐに」
こうして警官達は料亭を探し回った。すぐに北のある料亭においてつい一週間前に新入りを入れた店を見つけ出したのであった。
「ああ、いい腕ですよ」
「いい腕か」
「そうなのか」
「はい、まだ若いですけれどね」
それでもいい腕だというのである。
「そいつがどうかしたんですか?」
「怪しいですね」
「そうだな」
警官達はここで顔を見合わせて話をした。
「それじゃあそいつを」
「見せて欲しいんだが」
「そして署長に連絡して」
「見てもらおう」
こうして署長も呼ばれた。彼等の前にやけに目つきの悪い歪んだ顔の若い男が出て来た。署長はその顔を見てすぐに周りに囁いた。
「怪しいぞ」
「怪しいですか」
「わかるんですね」
「顔も歪んでいるし目つきも悪い」
人相からの話だった。
「それにその目も随分濁っている。悪事を続けている人間の顔だ」
「そうですね。それは」
「確かに」
言われてみればそうだった。何しろ彼等は警官だ。数多くの悪人を見てきた。その男はまさに悪人の顔そのものであったのである。
「それもかなりの悪党だな」
「じゃあこいつがですか」
「その殺人鬼なんですね」
「それをこれから確かめる」
署長はまた言った。そうしてだった。
「親父、いいか?」
「はい、何でしょうか」
「わしは鰻が好きだ」
まずはこう言ったのである。
「鰻を食えれば文句はない。それでだ」
「鰻をですね」
「頼めるか?」
あらためて店の主に言うのであった。
「鰻をな」
「はい、それでは」
「その新入りに切らせてくれ」
そしてこうも言った。
「新入りにだ。いいな」
「はい、わかりました」
主もそれに頷いてであった。その男に鰻を切らせた。すぐに桶から鰻が出され俎板に上げられる。署長は男が鰻を切る姿を見るのだった。
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