二十一話:愛ゆえに
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―――夢を見ている。
いや、見せられていると言った方が正しいのかもしれない。
あの子を救っている自分を遠くから傍観者のように見ている。
ああ、その姿は紛れもない正義の味方だろう。かつて自分が憧れた姿だと言ってもいい。
でも、ちょっと視野を広げてみればそれは間違いなのだと。
決してかつて抱いた理想の光景ではないのだと思い知らされる。
あの時は前しか見ていなかった。余裕などなく、狭い視野で少女だけを見ていた。
だが、落ち着いてしまえば、一人を救ってしまえば視野は広がってしまう。
少女を抱きかかえる自分のその向こう側で炎に焼かれて悲鳴を上げる少年を見てしまった。
逃げるように視線を横に向ければそこには瓦礫の下敷きになり血を流す老人が居た。
それにも目を背けて今度は後ろを振り返った。
そこには―――助けられたはずの人々の焼死体が転がっていた。
そうだ。自分は最も死ぬ確率の高い少女を救うために死ぬ確率の低い者を見捨てた。
衛宮切嗣が取るべき行動を、今までの行動を否定したのだ。
犠牲を救うために助けようとしたのは間違いではない。
ただ、大勢ではなく、少数を助けようと、救いたいと願った弱者を助けたのだ。
それは紛れもない裏切りだろう。自分の欲望に溺れ自分は彼らを裏切った。
だから、きっと、これは―――そんな自分への罰なのだろう。
助けたい人々が山のように目の前にいた。夢だと分かっていてもそれを助けに行く。
でも、何度手を伸ばしても彼らは灰となって消えていってしまう。
『あの子を見捨てていたら助かったのに』そう言い残しながら。
その言葉は間違いなどではないだろう。最も救える可能性のある者を見捨てた。
彼らの命と引き換えに少女の命を助けてしまったのだ、衛宮切嗣は。
あの時のようにただ一つのことだけを見ることができるのなら楽だろう。
怨嗟の声に耳を塞ぐことができるのならば何も問題はないだろう。
しかし、一度広がってしまった視野は決して狭まってくれない。
助けを求める者の姿を捉えて放してくれない。
本当の意味で逃げ出せるのならばいい。
だが、この体はどれだけ不可能だと知っていても、本当は怖くて逃げ出したくても救いに行く。
一度味わってしまったのだから、もうそれ無しでは生きられない。
誰かを助けるという極上の喜びを求めて彼は中毒者のように手を伸ばし続ける。
砂漠でオアシスを探し求めるように夢中で歩き続ける。
それでも、誰一人として救うことができなくて、絶望が心をむしばみ続ける。
もっとも、誰も救えないのも当然だろう。彼が救おうとしている者達は全て彼が見捨てた者だ。
一度見捨てたのに次は救うというのは余りにも虫の良
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